小説

□結論が出ました
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「あのさ…元カノから連絡あってさ…」

並木は言った。

「なんか…ヨリ戻したいって、言われて、」

並木に呼び出され、2人で飲んだ。その日の並木は口数が少なく、時折俺をじっと見つめた。
その帰り道、古い自転車屋のシャッターの前で、並木は立ち止まって唐突に話し出したのだった。

「それでさ、考えたんだけど……お前さ、」
「よかったな」

そう言うしかなかった。

友人の幸せを願えないなんて悲しいから、俺は並木を見つめたまま、ほんの少し笑った。
ちゃんと、笑ったように見えただろうか。

並木は納得のいかないような顔をして何か言いかけたけれど、その口はそのまま閉じられた。

そう。それでいい。
軽い遊びだったと思えばいいんだ。

俺たちは恋人なわけじゃないし、好きだと言い合ったこともない。

2度、体を重ねた。
でもそれは、傷心を抱えた2人の気の迷いだったんだ。

初めて並木に触れられた日から、1ヶ月ほど経った日のことだった。



 *



「今日、並木どしたの?あいつが来ねえなんてめずらしくね?柿崎連絡したんだろ?」

「したよ。でもなんか歯切れ悪くてさ。予定あんのかって聞いてもはっきり言わねえし」
「ふぅん。相内なんか知らねえの」

さぁ、と答えてから、柿崎と野村の視線を正面から受け止められずに、俺は手元のウーロンハイに視線を送る。

いつも、高校の同級生4人で集まる居酒屋。今日はここに並木の姿がなかった。

「でもなんか、彼女とヨリ戻ったとか」
「え!」
「あのデリカシー無い発言した女の子と?大丈夫なのかよおいおいおい」

並木は元カノと別れる時、セックスが良くなかったと言われて傷付いていた。
それがなければきっと、俺と並木はあんな行為に及ばなかっただろう。

考えを巡らせていたら柿崎が顔を覗き込んできた。

「相内なにその顔。並木取られて寂しいのかよ」
「3×3で合コンしようぜ!最近知り合った子の友達がかわいくてさぁ」
「野村は誰でもいいんだろ」
「そんなわけねえよ、俺にだって好みはある。ただ心が広いだけだ」
「何それ」

2人の会話を聞きながら、ともすればやけ酒になりそうな場をやり過ごした。



口数が多くボケ担当の並木がいないからか、いつもより1時間ほど早く解散した。

帰り道が1人逆方向の俺は、酔い醒ましにと自販機で買った水のペットボトルを手に、ゆっくりと自宅へ向かった。

居酒屋と自宅の間には並木の住むアパートがある。
あの日も、俺は水を持っていて、並木にそれを飲ませながら歩いた。数時間後、あんなふうになるなんて考えもしなかった。

俺はペットボトルを開けて水を一口飲んだ。

並木のアパートが見えてきた。並木の部屋の電気は消えている。家にはいないらしい。
それとも彼女と。

そこまで考えて、俺はうずくまりそうになるのをなんとか堪える。

この喪失感の意味を、考えたくなかった。

「相内?」

今一番聞きたくない声に呼ばれて振り向くと、並木が立っていた。その傍らに彼女。

なんてありきたりな展開。





そして。

「相内、ビールでいい?」
「いや、俺やっぱ帰るよ」

なぜか3人で並木の部屋にいる。

「いいからちょっと待てって。…美緒は?」
「私もビールで」

並木が彼女の名を呼ぶ。
なぜか、居たたまれない気持ちになった。

並木の彼女は落ち着いた感じの美人だった。
なんとなく想像していたタイプとは違った。天然系の並木と少しキツそうな彼女の相性はいいのだろうか。そんなことが、気になる。

「相内くんは、大学生ですか?」
「はい」
「理系?」
「理工学部」
「わあ、イメージぴったり」

並木の彼女がにっこりと笑った。
胃が重くなる。

「並木くんの友達っぽくないね」
「…は」

意味がわからず聞き返すと、ビールとつまみを抱えた並木がテーブルにつく。

「俺がバカっぽいって言いたいんだろ」
「別にそんなこと言ってないよ」

薄く笑う並木の顔を、彼女が覗き込む。

俺はここで何をしているんだろう。

このラグマットの上で、俺は並木と。

立ち上がる時、テーブルに膝が当たってガタンと音がした。

「ごめん並木。俺やっぱ帰るわ」



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