小説

□結論が出ました
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ずんずんと玄関へ向かい、靴を履きかけたところで後ろから手首を掴まれた。

「待って相内」
「いや。今日はもう」
「帰んないで」
「なんでだよ。明らかに邪魔だろ」
「頼む。いて、お願い」

振り返ると、真剣な眼差しにぶつかった。
並木の肩越しに部屋が見えるが、彼女は死角に入っている。
俺は声のトーンを抑えた。

「どうして」
「やっぱ無理って、言うとこなんだよ」

並木が囁く。意味がわからず見つめ返すと、並木は言葉を重ねた。

「断ったら罵られそうですげえ怖いから一緒にいて」
「え、それはまずいんじゃ」
「なんとなくわかんだろ、プライドたけえんだよ。俺が刺されたらどうすんの」
「外で断ればよかったのに」
「痴漢とかって叫ばれたら」
「お前そんな女と付き合ってたのか」
「実はさっき一回断ったんだ」

部屋からはテレビの音が聞こえる。

「でもどうしてもって、明日の朝まで一緒にいてもう一回考えてって」

朝まで、の意味を考えてしまい、俺は覚悟を決めた。



「どういうこと?」

彼女は詰問口調で言う。美人が怒ると迫力がある。

「だから、美緒とはもうやり直せないって」
「なんで?ちゃんと説明して」
「なんでって」
「大体、なんで友達の前でそんな話できんの?どういう神経?」

確かにプライドが高そうだ。
俺は黙ってやり取りを聞いていた。

「もうさ、美緒のこと好きじゃねえ」
「は?本気で言ってんの?よく1ヶ月でそんなに変われるね。あんなに好きだ好きだ言ってたのに」

並木。お前はひょっとして。

「仕方ないだろ。もう好きじゃない。気になる人もいるし」
「はやっ。どうせえっちしたくなってそのへんの女と寝たんでしょ」

もしかして。

「なんだそれ」
「絶対そうだよね。えっち好きだったもんね」

並木。
お前ひょっとして女を見る目がないんじゃ…。

「…なんでもいいよ。もう終わり。な」
「むかつく!傷ついた!」

俺は彼女に向き直った。

「もうやめてくれ」

自分でも驚くほど冷たい声が出た。

「これ以上、並木を傷つけるな」





「ははは。よかった。俺生きてんな」
「ふん」

彼女が荒々しく部屋を出ていき、俺と並木は改めてビールを開けた。

「もっと怒るかと思ってたけど。でも相内かっこよかったなぁ。お前がモテるのはもうよくわかった」

そんなことじゃなくて、もっと別のことをわかれよ。

心を読まれたわけではないだろうが、並木は俺を見つめて黙った。

テレビは別れ話をする時に消したので、部屋は見事に無音になる。

「俺さ、あいつからヨリ戻そうって言われたとき、正直ちょっと嬉しかったんだ」

並木が手で缶をベコベコ鳴らしながら言う。

「けどさ、それでもし……相内にも女ができてって考えたら、すげえそれ嫌だなって思った」

俺は何を言われるんだ。

ベコベコの音が止まる。

「なぁ。俺、誰かにお前取られんのイヤだ」

誰かに取られかけたのはお前だろ、と言いかけてやめた。嫉妬したことは内緒にしたい。

「イヤだ、って、じゃあ…どうすんの」

平静を装って言う。鼓動が速まった。

「とりあえず、相内を俺のものにしたい」

顔から火が出るほど恥ずかしいことを言われた。

「ほんとはあの時…相内に彼女から連絡来たって言ったあの時に、俺の気持ちはもう決まってて、お前あんな顔で笑うし、ほんと、あれ家だったらがんがん押し倒してたな」
「並木の話はあちこち飛ぶよな」
「だからさ、とりあえず彼女に話つけてから相内に気持ち伝えようと思って、でも彼女が思ったよりしつこくて家までついてきてさ、そしたら相内が家の前にいるんだもんな。もう今日で全部課題終わるじゃん、と思ったらもう」
「並木はよくしゃべるな」
「相内、返事は?」

言われて黙る。

どう言えって言うんだ。

お前のこと、手に入れるのが怖いって。
無くすこと考えたら震えて手が出ないって。

男に対して抱いていい感覚なのかわからない。恋愛感情なのかもわからない。
でも素直な犬みたいな並木のこと、俺はもう、友達として見られない。

そういうことを、どう伝えれば。




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