小説
□姫を賭けた王子たちの闘い。
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選択授業が終わって友人と教室に戻りながら、本城はその日の放課後に姫野とデートする約束を思い出した。気怠かった体があたたかいもので満たされる。
十中八九、甘いものを食べるだろうな。今日は暑そうだからパフェかアイスかな。
考えながら教室の前へ差し掛かった時、中から会いたくもない人間が出ていくのが見え、幸せな気持ちが一気に萎む。
向こうはこちらに背を向けていたので顔は見えなかったが、この学校にあんな銀髪は他にいないだろう。
本城は気持ちを落ち着けつつ教室に入った。
「本城くん」
席につくと、別の授業をとっていた野島が隣の席から声をかけてきた。
「1年生のタツキくんって知ってる?」
「あぁ…何かあった?」
「さっき本城くんを訪ねて来たよ。いないって言ったら、姫野先輩と仲いいんですねって、なんかニコニコしながら聞かれてうんて言ったら、本城先輩と友達だから今度一緒に遊びましょうねって」
本城は胸が悪くなりそうだった。
姫野のことが気に入ったなら、なぜ直接アピールしないのだ。周りから固めていこうとするやり口が気に入らなかった。
「他には何も言ってなかった?野島、変なことされてないよね?」
見た目がかわいい男がタイプなら、野島も危ないと思った。
「ううん何も。…友達、じゃないの?」
野島は本城の態度から何かを感じたのか、不安そうな顔をした。
「いや、うん…あんまりよく知らない人なんだけど」
「そうなんだ……」
野島が真っ直ぐに見つめてくる。
日頃から野島は勘のいいところがあり、今もきっと多少気づいたことがあるのだろうと思ったので、本城も黙って見返した。
「僕、何でも協力するからね!」
眉間にシワを寄せながら珍しく強い口調で宣言する小柄な友人に、頼もしさを感じて微笑んだ。
その日の放課後、タツキはまた本城を訪ねてきた。
本城は姫野を迎えに、もう教室を出るところだった。
「あ、本城先輩。もう帰っちゃうんですね」
「しつこいね。用があるなら今言える?なるべく短く端的に」
長身の金髪とそこそこ長身の銀髪が向かい合う光景は、若干注目を集めた。
「別に。仲良くしたいだけですけど」
「誰と?」
「誰とだと思います?」
「さあ。全然わからない」
2人の間に流れる冷たい空気に周りが侵食され始めた時。
「ああ、さっきの…タツキくんだっけ。どうしたの?本城くんは多分急いでると思うんだけど」
野島が間に入ってタツキを見上げた。わざとのんびりした声を出したのか、空気が少しだけ緩む。
「いえ、別に。じゃあまた今度」
「俺は別に話したくないけど」
「そうですか。寂しいな」
「思ってもないことを話すのが得意なんだね。感心する」
「心外ですけど」
「特技なんじゃないの」
「本城先輩もそういうの得意なんじゃないんですか」
2人の声は内容にそぐわず、やけに穏やかに響いて、聞く者を逆にぞわりとさせた。
「本城くん、ほらもう行かないと。タツキくんも、また今度ね」
野島が無理矢理2人を引き離す。
タツキは野島に軽く笑いかけてからその場を去った。
「ごめん。野島」
「ううん。本城くんは悪くないよ。なんかあの人、少し怖いね」
本城は、自分もタツキのことを多少怖がっているのだろうと思った。
話をしてもふらりとかわされ、向こうはぐいぐいこちらの領域に入ろうとする。暗黙のルールが通じない。
本城は野島に礼を言ってから、姫野の教室へ向かった。
*
「暑い」
「本当だね」
「イライラする。ほんとイライラするその金髪」
暑さへのイライラを地毛の金髪にぶつけられて、本城は苦笑する。