小説
□安達さん、イート。
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「さあ、夏も目前だね、みっちゃん」
安達さんが何の違和感もなく、何の罪の意識もなく、勝手に作った合鍵でうちに入ってきて言いました。
まだ6月だというのに日中はうだるような暑さで、日が落ちた今、風が出てやっと少し涼しくなりました。
今日の安達さんは涼しげに萌葱色の浴衣姿です。白くて細い帯をしています。
僕はバイトがお休みで、大学から帰ってアイスを頬張っていたところです。
「ときにみっちゃん。お豆腐は好きですか」
「おとうふですか。はい。好きですけれど」
「実は今日の午前中、暇だったもので豆腐を一からこさえてみたのさ。これがそのひとつで」
安達さんの手には、ボールに入った一丁のおとうふ。
「うわあ。お上手ですね」
「そうかい…みっちゃんに褒められると図に乗って明日にでも豆腐店を旗揚げしてしまいそう」
安達豆腐店。
ふふ、と笑う安達さんの顔は、とてもうつくしいのです。
昼間の暑さなど感じさせない涼しげな様子です。
「一緒に食べるかい」
「いただけるんですか。冷奴にでもしますか」
僕は、冷蔵庫に青ネギや生姜が入っていたかな、と考えました。だから、
「そうさな…」
と呟いた安達さんの表情に注目することができませんでした。
きっと、お下品な表情を浮かべていたに違いないのです。
それからの流れは、あまりにスムーズで抵抗もできませんでした。
あっというまに僕は素っ裸にされ、ベッドに転がされて、さっきまで安達さんの腰に巻かれていた帯で目隠しをされてしまいました。
すぐそばでしゅるしゅると音がして、座った僕を抱き締めてきた安達さんの体はもう布を纏っていませんでした。早業です。
「あだ、安達さん…僕はなにをされるんですか…」
「嫌だねみっちゃん。わかっているくせに…」
安達さんが耳元でふふと笑います。
「わかりません…」
「嘘をつくんじゃないよ…」
「わかりませんったら…」
「そうか。わかったぞ。君の魂胆が」
「こんたん?」
そうだよ、君のいやらしい魂胆が、と囁き、安達さんは僕の耳にそっとキスをしました。
言ってほしいんだね、
耳元でこうして、
私のこの声で、
性的なことを、
囁いてほしいという事だね。
君と激しいセックスがしたい、
君をめちゃくちゃに抱きたいと、
そう、
私に言わせたいのだね。
安達さんがゆっくり、区切るように言って、僕はもうふわふわしてしまいます。
いじわるなことを言いながらも、その声音はとろけるくらいに優しいのです。
安達さんは僕をうしろから抱き締めて、僕の露わになったあそこやあそこをゆっくり撫でました。
「あぁん…」
僕は恥ずかしくて気持ちよくて、すぐに体が熱くなってしまいます。
「ああみっちゃん…わかるかい、これは、この体勢は、みっちゃんのあそこにむしゃぶりつきたい私にとっては一種の地獄のようなものだよ…口が届かないからね…ハア、ハア、ハア」
安達さんの息が荒いです。
「安達さん…」
「舐めたい…舐めたい…ハアハア…舐めたい…食べたいよみっちゃん…はあは、あ、はあ…うう…」
安達さんは僕のあそこやあそこを両手で撫でまわしながらどんどん様子がおかしくなっていきます。
「みっちゃん、ちょっと待っておいで」
そう言うと安達さんの気配が離れて行きました。
「…安達さん…」
小さな声で呼ぶと、少し離れた場所から「はい、はい」と返事が聞こえたので、僕は安心して待ちました。
「ひゃあ!」
安心して待っていたというのに、それもつかの間。僕は股間にひどく冷たいものをあてがわれて変な声を出してしまいました。
「あだ、安達さん、一体これは…」
「ふふふふ」
安達さんは低くていい声でこう言いました。
「私の特製豆腐だよ、みっちゃん」
僕は言葉を失い、それから叫んでしまいます。
「なんてことを!」
私の作ったおとうふがみっちゃんの股間に、と言いながら安達さんは静かに笑い、僕はいろいろ言いたいことがあるのに全くもって動けないのです。
「たべ、食べ物をお大事に!」
「そうだよ、大事にこうして、大事なみっちゃんに」
「間違いだらけですよ、ああ、冷たい…安達さん…」
「白い。みっちゃんの股間が白い。壮観だ」
僕の股間は今、一体どうなっているのでしょう。
安達さんの手が豆腐らしきものを僕の股間にくちゃくちゃ塗りこむようにしているのはわかりました。
ああ。大変嘆かわしいことです。
ベッドも汚れてしまっているのでは、と暗澹たる気持ちになりました。