小説

□森田と岡崎23 (ひとくぎり)
1ページ/4ページ


秋。
森田さんと付き合うようになってから、3ヶ月くらいが過ぎた頃だ。

久しぶりに2人で図書館に行った帰りだった。

その日は少し足を伸ばして、少し遠くの図書館へ行ったんだ。
周りをいろいろ見て回れそうだったから、少し離れた駐車場に車を停めて、知らない道を2人で歩いた。

森田さんは借りた本の入ったトートバッグを持っていた。少し前に俺が買ってあげたやつだ。
森田さんは本をたくさん借りる。たくさん返す。だから袋があると便利だと思って、買ってあげた。
超シンプルなデザインで、森田さんが持ってしっくりきそうなやつをみつけたから。

ちなみに、その中には俺の借りたマンガも入っていた。
図書館にマンガもあるなんてすごく便利だって話して歩いた。

すごく晴れてて、森田さんが「秋晴れ」って呟いて、俺が「うん」って返事をした。
すごく気持ちがよかった。
そのあと俺が買い物したくて、ちょっと店を見てから晩メシを食べて帰る予定だった。

楽しい楽しいデートの日。何日も前からその日を楽しみにして仕事もがんばった。

なに食おうね、って言うと、何でも、岡崎さんの好きなものを、って、返事が返ってきた。

コーヒーショップの前を通りかかって、いい匂いがしたから、コーヒーがほしくなって森田さんにそう言うと、珍しく「じゃあ、俺も、飲みます」と言ってくれて、俺だけが店内に入ってテイクアウトでコーヒーを2つ買った。

店を出たら、森田さんが、男を連れた女と、向かい合って立っていた。

直感だ。これはオンナの勘だ。
いや、俺は全然オンナじゃないけど、オンナポジションの勘だ。

あいつは、森田さんの、元妻だ。
あの女だ。絶対そうだ。

頭に血が上って、勢いをつけて足を踏み出して、俺は森田さんの隣に立った。

森田さんは俺を見た。
女も、隣の男も、俺を見た。

俺は、女だけを見た。

こいつか。

許さない。

俺はお前を、ずっと、ずーっと、許してない。

「あの、」

森田さんが何か言った。
女が森田さんを見た。

見るな。お前に、森田さんを見る資格なんてない。

口を開くとひどい言葉で思い切り殴りつけてしまいそうで、俺はずっと奥歯を噛み締めていた。

「岡崎さん、俺の、その、前の、奥さんで」

小さな声を聞いた。
そんなふうに言わないで。もう苦しくて息ができない。

こいつはもう前の奥さんでも何でもない。ただの女だろ。もう森田さんとは関係ないだろ。
おねがいだから、こいつを俺に紹介しないで。
そっち側に、行かないで。

このまま、なにもなかったことにして。
誰も、なにも言うな。
なにか言葉を聞いたら、それをきっかけに俺の中で外で、大きな爆発が起きるとわかっていた。

でも女が言った。
小柄な、平凡な顔をした、化粧の薄い、でもなんか目がやたらきらきらしたような、全体的になんだか陶器のミニチュアみたいなその女が。
おとなしそうで、いかにも本を読みそうな。
森田さんと趣味が合いそうな、その女が。

「友達?」と、俺のことを森田さんに聞いた。

うるっせえ。黙れ。



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ