小説

□婚前旅行
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住んでる街を離れて遠くまで来た。

車で3時間。
俺の実家の車を相内と交代で運転して、目指すのは山の中にあるお宿。
客室露天風呂があってご飯がおいしいって有名で、連休はもちろん土日もなかなか予約が取れないらしいその旅館へ、大学4年で就活も終わった俺たちは堂々と平日に出かけた。
今、俺の運転で山道を登っているところ。道路の左右はわさわさした緑が広がっている。

「窓開ける?きれいな空気がおいしそうじゃねーの、ふふふ」

最高だ最高だ最高だ!
楽しくてケツがむずむずする。

「風が俺たちを祝福してるな!」
「そう?」

おかしそうに笑う相内も、いつもより少しだけテンションが高い。
嬉しい。

「湖があるんだろ、どこかな、見えないけど」
「そっち側じゃない?」
「部屋から見えるかなぁ」
「取れたの、山側じゃなかったっけ」
「だったらやっぱ見えない?景観がいい方は高かったし混んでた」

今回の予約も俺が担当した。
2人だけの旅行。
楽しみで楽しみで、宿代をちょっと奮発した分バイトもがんばった。
たくさん思い出作るぞ。そして抱く。抱きまくる。このかわいい宝物を。
ふふ、ふふふ。

「あれ、俺、鼻血出てる?」
「おい…!」

相内が助手席から鼻にティッシュを当ててくれた。

しばらく走ると、たまに泊まるようなビジネスホテルとは違う、独特な佇まいの建物がぽこっと顔を出した。なんて言っていいのかわからず呟く。

「古いな」
「まあ。そうだろうな。…でも、いいね」

相内の機嫌が良くて本当に嬉しい。




駐車場に車を停めると、物腰丁寧でなんだか全体的に丸っこい感じの仲居さんが笑顔で迎えてくれた。

「お荷物お持ちしますよ」
「いやいや!大丈夫です!」
「お持ちしますよ、お任せください」
「大丈夫!男の子なんで!力持ちなんで!」

笑う仲居さんと相内。
親戚のおばちゃんを思い出した。

チェックインのためにカウンターへ行くと、なんだかキャンセルが出たとかで景観のいい湖側の部屋を用意できたと伝えられた。

「相内さん!ラッキーですな!」
「だね」

にやっと笑った相内の手を思わず握りそうになって耐える。かわいい顔をするのも大概にしてほしいものだ。
温泉に入ってそれ以上肌つるつるになってどうする気?

危ない。勃起するところだった。ほんと危ない。

仲居さんの案内で部屋へ向かう。
建物の中はとても綺麗だった。骨董品のような壷やら花瓶やらが所々に飾られて、迂闊に走り回れないようになっている。
走り回らないけど。

部屋は3階だった。

「こちらのお部屋です」
「うわー!見て!見て相内!見ろ!おい!」
「わかったから」

窓からは、晴れ渡る空とその色を映した湖が見渡せた。遠くにボートが浮かんでいる。さっき俺たちが通ってきた道路も見えた。
深々とした緑に囲まれて、どこまでも優しい景色だ。

「こちらから客室露天風呂へ出ることができますのでね」
「おー!風呂!風呂!相内!見て!風呂!」
「わかったから」

食事や設備の説明を受け、お茶の用意を丁重にお断りして、仲居さんが笑顔で出て行くなり、我慢の限界を迎えていた俺は旅行バッグを開けようとしていた相内に飛びついた。

「おい」
「相内。早速で悪いけど抱かせて」
「は?!」

さすがに驚いたのか。

「な。いいだろ」
「よくないよ、まずお前、いろいろすることあるだろ」
「ないよ。何もないよ。相内以外には何も」

畳の上に相内を仰向けに押し倒すと、背中に受けた衝撃で相内が一瞬目を閉じた。
それだけのことでぐわっと体が熱くなる。
抵抗する体を押さえつけてキスする。

「カギ、かけないと、」
「オートロックだったろ、よく見とけよ」
「カーテン全開だし、」
「こんな山ん中の3階の窓を誰がどうやって覗くんだよ、いい加減にしなさい」

困った子だ。

「メガネどうする?取る?まだいいか」

キスしながら服の上からおっぱいを揉むと大人しくなった。
のも、つかの間。

「な、並木、ちょっとま、待って」
「ぐえええ」

喉を押された。喉を。そこは人間の急所である。

「何すんの…」

涙目で聞くと、体を起こした相内に押されて尻もちをつく。



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