小説

□森田と岡崎25 よっぱらい
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朝方、酔った岡崎が帰宅した。

閉店後に店の同僚と飲みに行くと聞いていたので先に寝ていたが、いつもと違いドタバタと音を立てながら玄関から入って、そのままどさりと倒れたようで、慌てて布団を出て様子を見に行った。

「お、岡崎さん…?」
「たっだいまぁー」

仰向けに倒れた岡崎のそばにしゃがんで声をかけると、ニカ、と笑って岡崎が大声で言った。

「森田しゃんじゃ」

すごい。すごく酔っている。酒には強いはずなので、ちょっと見たことがない様子だ。

「…大丈夫?」
「大丈夫らよ」
「…とりあえず、靴、脱いで」
「脱がせて、脱がせてー」

苦笑しながら、差し出された左足からスニーカーを脱がせる。

「こっちもねー?」

岡崎は、フフフ、と笑いながら右足を上げた。

「…はい。立てる?」
「立てるよ!俺は立てるよ!」

一向に立つ気配がない。
そのまま寝ようとする岡崎の上半身の下に腕を入れ、持ち上げる。

「うわぁー、俺はお姫さまだ!王子!王子!」

まあ、楽しそうだからいいんだけれど。

くすくす笑う岡崎を、ぐっと力を込めて抱き上げ、一旦畳の上に下ろした。

首にかじりつくように腕を回したまま、岡崎が離れない。
そのままたっぷり1分は待って、腹筋への負荷に耐えきれず岡崎の上に倒れ込んでしまった。

「あっあっ森田さんダメぇ〜お願い〜乱暴しないで〜あたし処女じゃないから〜」
「…岡崎さん…着替えるよ…」
「着替えるといえば!あなた!」

両腕と両脚を使って俺にしがみついたまま、岡崎は大きな声を出す。

「あなたねー、あたしのこのTシャツをー、自分のー、服と一緒にー、あそこへしまいましたね?」

指差す先は押入だ。
そうしておもむろに起き上がったかと思うと、あぐらをかいた俺の膝の上に向かい合わせに乗ってきた。
抱きついて肩に顎を乗せ、首元に顔をすりすりとくっつける岡崎に声が出ない。
酒の匂いに交ざって岡崎の香りがした。とても近い。

「おとといー、探したんですよー、そしたらー、あそこにあったよ、これ、俺のやつ、森田さんがー、好きなの?家族?お母さんじゃん!これねー、すごい好きなのね、俺、森田さん、すごいー、フッフフフ」

言葉の意味が半分くらいわからないが、申し訳ないことをしたらしい。
背中に腕を回してぽんぽんと触れると、岡崎は「んー!」と言いながらぎゅうぎゅうと抱きついてくる。

「ごめん」
「違うー」
「探した?」
「うんー」
「間違って、一緒に入れた、かも」
「うんー、あはは」

それがすごくいいよー!と叫んで、岡崎は足をばたばたさせた。

「何が」と聞きかけてやめる。酔いがさめてからにしよう。

「森田さん好きなの!」
「……うん」
「森田さんー!すごいね、まじ死ぬほど好き!死んでもいいよ俺ほんと死にたくないずっとここにいる!」
「うん…そうして…」
「ずっと、ねー、森田さん、すげー幸せだからー俺帰ってきたら森田さんいるのすげー、いいからね」
「そう、か」
「好き」
「…うん」
「うれしいー?」
「うん」
「うれしいー?森田さんね、俺、好き?」
「…はい…好き、だよ」
「まさひろって、呼びたかったら呼んでいいよ!まあ、とかでもいいんだよ!」
「…今度ね」
「今度ね!」

きっぱり言って、岡崎は俺を放した。

岡崎を膝からおろして布団を敷き、パジャマを出したところで岡崎が「パンツも!」と叫んだので、岡崎の荷物から下着を探し出し、なるべく見ないようにして渡す。

「着替えてー」

着替えさせろということらしい。

「無理です。自分でして」
「照れないで!」
「駄目」
「脱ぐからー!全部!」
「だめ、岡崎さん、わかった、もう寝よう」

着替えさせるのは諦めて、なんだか楽しそうな岡崎に布団をかける。

「…大分、酔ったね」
「うんー」
「楽しかった?」
「うん。でも今だねー!やっぱここだー、一番楽しい、いまー…うん…フフフフ…」

だんだん遠ざかる意識の向こうで、岡崎は何を見、感じているだろう。

俺は今、ここにあなたがいてくれることを幸せに思っているよ。







-end-
2016.7.6



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