小説
□吉丁八本 4
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コウが厄介な事になった。こころにハマったらしい。
こころはあんなに翔に心酔しているのに。勝ち目なんかないし、胸糞悪い想いをするだけなのに。馬鹿な奴だ。
コウは元々我儘なところがあるし嫉妬心も執着心も強いから、ハマれば相手に恋人がいようが寝取りだって別に何でもない事のようにやってのけ、自分のものにしてきた。
一見爽やかに見えるが、昔からそういう奴だ。
そういうところも込みで、女に人気がある。
言っても聞くようなタマじゃないから放っておこうと思っていた。
心底面倒だ。
「なあ。ヤってるとこ見せて」
コウの声は普通だ。けど、内心青筋を立てているのが俺には手に取るようにわかった。
深夜、麻雀で集まった俺の部屋でのこと。
ベッドに並んで座っていた翔とこころは、コウにそう言われて顔を見合わせた。
多分それだけでも、コウは相当頭に来ているはず。
止めておけばいいものを。
俺はコウの隣で煙草の煙と一緒にため息を吐いた。
「心」
いい?と翔がこころに聞く。
翔はこころにはどこまでも優しかった。
優しいけど頭がおかしい。
「うん。いいよ」
頷いてにこにこ笑うこころは、翔の言うことなら何でも聞く。
まあ正直、こんなに従順に一途に想われれば男なら嬉しくないはずがない。
忙しなく煙草を吸うコウは、歯ぎしりするほどそのポジションが欲しいのだ。
ちゅ、ちゅ、クチュ、ぴちゃ、と音を立てながら、2人がキスをしている。
思えば俺もそうだった。なぜかこの2人のセックスが見たい。
何にも執着の無いように見える、生きる事すらどうでもいいと思っていそうな翔と、中身をどこかに置いたまま生きてきてしまったみたいなこころが、どんなセックスをするのか興味があった。
それは吐きそうなほど普通のセックスだった。
普通で、異常だった。
こころは魔性だ、と思う。見れば見るほど、話せば話すほど、あの人間の淫蕩な表情と身体が見たくなり、秘部の奥の奥を暴きたくなる。
風俗はあいつの天職だ。間違いない。
翔は思っていたより激しく乱暴にこころを抱いていた。優しく丁寧にこころの名前を呼ぶくせに、目が死んでいて薄気味が悪かった。
翔はこころとセックスしながら、そのどろりとした目で何度も俺を見た。牽制なのか何なのか知らないが。
早々に我慢がきかなくなった俺は、咥え慣れているこころにフェラさせながら、翔の口にも突っ込みたい衝動に駆られた。
嫌だ、止めてください、と言ったら許してやろうか。
でも「好きにしてください」と言われて醒めた。
こころのことは単純に、素直でかわいい奴だと思う。
翔はあの日から、俺の中では得体の知れない気味の悪い奴になった。
「あぁっ、ん…翔くん…」
甘い声に顔を上げると、全裸のこころが「好き、好き」と言いながら翔のちんぽに自分のを擦り付け腰を振っている。
幸せそうで何より。
コウの灰皿には吸殻が増える一方だ。
「なあ」
コウが突然でかい声を出す。
「こころさー、嫌がってみて。レイプみたいにさー。イヤだやめてとか言ってんのに翔が乱暴にして、押さえつけてぶち込むみたいなやつが見たいんだけど」
何を言い出すんだ。こいつも大概だ。
思わず翔達の方を見て、俺は見たく無かったものを見た。
コウが気づいたかわからない。翔はコウのことを一瞬酷く冷たい目で見た。馬鹿にしたような、侮蔑の視線だ。
翔はやはりちょっと普通ではない。深く付き合いたくなくなった。
翔がこころの耳元で何か囁き、こころが一瞬翔に強く抱きついた。
そして。
「やだっ!やめて…!」
潰れた声をあげ、こころがもがくのを、翔が上から思いきり押さえつけて脚を開かせようと動く。
「や、ね、翔くん、お願いっ…、痛いよ!」
こころの言い方は真に迫っていて、ぞくりとした。
演技派だ。男専門のデリヘルやってるだけある、と妙に感心する。
「すぐ終わるから」
押し殺したような翔の声が聞こえ、必死に抵抗しているように見えるこころが鼻をすすった。
これでボロボロ泣きだしたら俺はあとでこころに何かうまいもんを奢ってやる。