小説

□番外U
1ページ/2ページ


今日何回目かわからないけど、鏡を覗いて自分の外見をチェックする。

「よし。大丈夫だよね。ピンクのドット柄とか着てないし、髪型もモサってないし、ニキビもないっと。今日はおとなしくしてなきゃ!」

だって!だってね!なんとね!
今日はあっくんのお兄さまと会うんだ。

「ダテ眼鏡とかいるかな?」

悩んでいたらチャイムが鳴った。

「何その服。は?眼鏡?どうした頭のほうがついにアレか」
「あっくんおはよ!これ、眼鏡した方がいいかなぁ」
「いいって。普段通りで」
「だって、あっくんのご家族に会うんだよ?真面目に付き合ってますって言わなきゃだよ?」
「お前それ似合わない。いつもの方が俺は好き」

はい却下。さらば地味ニット。

「じゃあやっぱりピンクのドットのシャツにしよう」

ちょっと緊張するなぁ。
どんな人だろう、あっくんのお兄さま。








「兄貴、来たよ」
「こんにちはぁ、お邪魔しますぅ」

小綺麗なマンションの一室に上がると奥から、おう入れ、と低く太い声が聞こえた。

段ボール箱だらけの部屋にいたのは、あっくんとは全然似ていない男の人。
ただひとつ共通点があるとすれば。

「超絶イケメンですねお兄さま!」

考える前に言葉が飛び出した。
あっくんがスッキリ系イケメンだとすればお兄さまはワイルド系。
品種は違うけどどちらも素晴らしい仕上がりだ。

「ジーザス!超ファンタスティックです!」

胸の前で手を組んで祈る。

あっくんのお父さま、お母さま。
あなた方のお陰で世の中のイケメン度数が上がりました。
本当にありがとう。感謝します。

「彰の友達か?」
「そう。広樹」

あっくんは俺を無視してお兄さまとお話ししている。

「広樹くん、悪いね。彰の兄の忠人(ただひと)だよ。お礼はちゃんとするから。よろしくな」
「がんばりますね!」

お兄様はイケメンの上、低く張ったイケボの持ち主でもあった。
あっくんより背が高い。
てゆーか。

「あっくんたら。何が友達なの?ちゃんと紹介してよぅ」
「あ、あとで…」
「ダメぇ、いまぁ」
「忙しいからあとで。兄貴、まず何すればいい?」

ちっ。はぐらかされた。
今日はお兄さまの引っ越しの日で、俺たちはそれを手伝いに来たのだ。

「彰はテーブル分解して。脚外れるはずだから。広くんはそうだなぁ…」
「広樹はもの壊すから俺と一緒に動いてもらうわ」
「そうか」

失礼だな。

その時、玄関のドアが開閉する音がした。
部屋に姿を現した人を見た俺は5秒くらい固まった。
ものすごい美人さん。
女の人だ。さらさら系の髪の毛を後ろで束ねていて、後れ毛がほやほやしててなんともすてき。お兄さまより少し背が低くて、儚げな感じ。
年も多分お兄さまより少し下くらいだろう。
女の人にしては背が高いけど。いやいや。いやいや。

「あ、こんにちは」

男だった。声が男だし喉仏もある。でも美人。キャー!

「美咲(みさき)ちゃん、これ、弟の彰人」
「初めまして。兄がお世話になってます。彰人です」
「いえ、こちらこそ。美咲です」

美咲ちゃんはほんわりと笑った。
美しい。酷い。神様なんかいるもんか。不公平。

「こっちは友達の広樹くんだって」
「こんにちは、広樹くん」
「こんにちは!ってかお兄さまあのね、僕ぅ、あっくんの友達じゃないんでぐうぅぅ」
「その話はあとって言ったろ?『僕』ってなんだろうな?気持ち悪いな広樹くん」
「んぐ…うえ…」

あっくん怖い…手のひらで鼻と口を同時に押さえられて死ぬ……死…ぬ……

「ふふ、仲良しなんだね。かわいい。広樹くん」
「えぇ?そうですかぁ?」

美咲ちゃんはとっても美しく笑いながら俺の頭を撫でた。

「美咲ちゃんの方がかわいいです!ってか超きれい!」
「だろ?俺も患者として初めて会った時びっくりしたんだから」
「患者さん?」
「美咲ちゃんは歯医者さんなんだよ」
「ええぇ!すごい!でも似合う!いいなぁかっこいいしきれい!」

そんな、恥ずかしい、とか言いながら美咲ちゃんが少し赤くなった。
こんな歯医者さんだったらモテモテなんだろうなぁ。

「手がきれい!指が」
「だろ」

なぜだか美咲ちゃんより得意げなお兄さま。

「ほら。もう作業しないと。兄貴、夜仕事だろ」
「おう」

わいわい話してたのをあっくんがぶったぎって俺の手を引いて行く。

「あっくんどうしたの?」
「……別に」
「あっくん?怒ったの?ねえあっくん」
「いいからほら。手伝え」
「うん…」

テーブルの解体をてきぱきと終え、あっくんはお兄さまに指示されたガムテープを買い足しに行く、と見せかけて俺の手を引いて洗面所に入った。
とっても広い。

「あっくんどうしたの?」
「お前があんまり…あの人に…」
「なぁに?」
「いや。いいから」

あっくんは俺を抱き寄せておでこにちゅうをする。

「あぁん…勃った…」
「知るか」
「うそ…ねえ、どうしたの?あっくんも俺とにゃんにゃんしたいんでしょ?にゃーん」
「…こっち」

さらに奥のお風呂場へ。電気を消したままだから薄暗いけど、きれいに磨き上げられているのがわかる。


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ