小説

□彰人と広樹と素股
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機嫌が悪い。そこらじゅうのものに八つ当たりしそうになる。
手始めに玉ねぎのみじん切りをしてみると、いつもよりえらく細かくなった。ほぼピューレだ。
それでもおさまらないので、輪切りにしてドレッシングで食べようと思っていたきゅうりを丸かじりした。

「パキッじゃねーんだよ」

もごもご呟きながら、イライラの原因について考える。
全ては広樹が原因だ。
広樹がかわいいのが悪いのだ。
あいつのあの生まれつきの、小動物の赤ちゃんみたいな顔と、小柄でちょっとなで肩な庇護欲をかきたてる体つきが悪い。
感情豊かですぐ笑うし、その笑顔が子どもみたいで、基本的に優しいから困ってるやつをほっとけないようなお節介なところもあって、あの顔で「どうしたの?」などと聞かれれば誰でも少し安心してしまうに違いない。

「腹立つ…」

窓の外は暗い気持ちを更に重くするような曇天だ。
きゅうりはみずみずしくてうまい。
広樹の太ももが好きだ、俺は。白くてふわふわぷにぷにしててすべすべで。
手も俺よりずっと小さくて。
かわいい。あいつは全体的にとにかくかわいい。それが悪い。

「腹立つ!」

きゅうりはうまい。
玄関のドアが開く音がする。

「あっくーん!来たよぉ」

当の本人がやって来た。

「急に『とにかくうちに来い』だなんて珍しいからうれしくてすぐ家出て来たぁ」

にこにこと俺に近づいてくる広樹を、食いかけのきゅうりを置いてから抱きしめる。

「お昼ごはん?きゅうり?丸かじり?」

楽しそうに言い、ふんわりと抱き返してくる広樹にムラムラが止まらない。

「オムライス作ろうと思ってたけどやめた」
「やめたの?俺おなかすいた。コンビニ行く?」
「そんな暇はねえ」
「時間ないの?」
「ねえよ」

誰のせいでこんなことになってると思ってる。
完全に嫉妬からのやつあたりなのは自覚しているけれど本人に会っても苛立ちは治らない。

「お前、誰のものだか自覚あんの?」
「ん?」
「ちょっと来いよ」

料理してる場合では全然ない。メシもいらない。広樹を抱きたい。
ベッドの脇の壁に広樹の小さな体を押し付けて上から睨みつける。

「怒ってるの?」

小さい声で聞く広樹はとても不安そうな顔をしていて、途端に愛しさがこみ上げて来たので非常に優しくキスをしてしまった。

「んん…」
「怒ってるよ俺は」
「なんで…?」

なんでだと。

「お前のせいだからな」

お前がかわいいのが悪いんだ。
広樹の体をすくってベッドの上に投げつけるようにおろす。

「おわっ」
「お前男の部屋に泊まったんだって?2人で一晩過ごしたのかよ。どういうつもりだ?言い訳は聞かねえからな。創樹から聞いた」
「違う、何もしてない、遊んだだけ」

一瞬広樹の瞳が揺れた。それを見て怒りが強まる。

「は?じゃあお前は俺が女の家に泊まってなんもしてねえっつったらはいそうですかって納得すんのか?しねえだろ?ふざけんなよ殴るぞ」

いかん。怖がらせている。でも止まらなかった。上から手を押さえつけて脚の間に膝を入れる。広樹は内股になって少し抵抗した。

「やぁん…」
「お前は、俺のもんだ」

腹の底から声が出た。広樹がぎゅっと目を瞑り、俺はほとんど噛みつくようにしてキスをした。




正常位と、バックと、立ちバックで3回出した。広樹が何回イったかは知らん。
怒りのせいなのか何なのか、まだいける気がしたのでうつ伏せにした広樹に覆い被さって4回目だ。
汗だくだし、ベッドはどっちのなんだかわからない体液だらけだ。

「あっ、んんっ、いいよぉ、イくっ、また出る、ああっ」

広樹がかすれ気味の声を出した。
こいつもこいつで限界が無いのか。今に始まったことではないけれど恋人の性欲の強さが怖い。耳元で笑ってしまった。



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