小説

□努力!1回戦勝利!
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「頼む鳴海…セックスとまでは言わない、言わないから…素股でいいから…」

俺は何を言っているのだ。

「柏木さん、顔を上げてください、そんな…何を言って…いるのかちょっとわからないですよぅ、ふふ、ははは」

鳴海もやばい。

「笑うな」
「ごめんなさい、だって、ふふふ、すまた…?ふはっ、すまたって何ですか?」
「まじかよお前」
「ブフッ」
「笑いすぎ」

俺の部屋で2人で酒を飲んだ。金曜の夜だ。
明日は休み。恋人と2人。そういう雰囲気になっておかしくない、むしろならないほうがおかしいはずだ。

なのに鳴海はなぜかこのタイミングで笑い上戸の能力を発揮したのだ。

「ねえ柏木さん、すまたって?あはは、すまた!すまたしたい!俺もすまたしてみたいです!」
「え?お前も…」
「ねえ柏木さん、俺もすまたしたい!すまたすまたー!はは」

かわいい顔でそんなふうに屈託無く言い、抱きついて来る。
絆されそうだ。
いやしかし。ここは先輩の威厳も男のプライドも守りたい。

「鳴海」
「はい」

鳴海は素直でまっすぐな視線を向けて来る。
……負けないぞ。ここで立場をはっきりさせてやる。
真剣な表情を作ってにじり寄ると、鳴海は少したじろいだ。

「お前、俺に抱かれたいという気持ちはないの?」
「柏木さんに、抱かれる……」
「俺が丁寧にお前に触れて」
「触れて……」
「気持ちよくしてやって」
「気持ちよく……」
「我慢できない、もう、いいか、って、切羽詰まった顔でお前に聞いたり」
「切羽……」

優しく頰に触れながら説明するのに、鳴海はどんどん眉毛を下げて行く。わからない。どういう感情だそれは。

「お前の名前を愛おしげに呼んだり」
「鳴海って……?」
「そう。鳴海って」
「柏木さん、逆に、僕が柏木さんを抱いたらどうなります?」
「えっ、どうなるって……」
「僕が愛おしげに柏木さんを呼んだり」
「呼んだり……」
「我慢できなくてもうダメですどうしようって涙目になったり」
「かわいい……」
「キスしようとして歯が当たっちゃったり」
「童貞かわいい……」
「男同士でもそういうこと、できるって調べたんですけど」
「調べたのか!」
「このあいだ買ったバイブが」
「あれは特殊な性癖の男性用だからな……?」
「僕、柏木さんとの初めてのこと考えたら幸せで……でも、僕がその、男の子の役だと思っていたので」
「そう……」

なんで。どうして。混乱しつつも「柏木さんとの初めてのこと」という言葉が頭の中でぐあんぐあん鳴った。
きっと俺の眉毛もこれ以上ないほど下がっていることだろう。

「俺はお前を抱きたいと思ってたんだよ。ずっと」
「そうなんですか?だってどうしたって柏木さんはかっこいいし、僕の憧れの人だから、大事にしたいのは僕の方ですよ」
「え?普通に嬉しい」

ふはは、と鳴海は笑った。

「柏木さん、今日はなんだかかわいいですね」

全っ然駄目だ。嬉しくてタチとかネコとかどうでも良くなってきた。
でも負けたくない。残りわずかなプライドを無理矢理かき集めて抵抗した。

「わかった。挿入についてはまた検討するとして、今日はとりあえず俺に素股をさせてくれ」

ムードも何もあったものではないが、言われたことが本当に嬉しくてたまらず抱きつくと、鳴海は俺の背中をそっと撫でた。

「すまたってよくわからないけどいいですよ。柏木さんがそこまで言うなら、僕は何だっていいんです」

鳴海の手を引いてベッドルームへ向かいながら、鳴海の懐の深さに自分の浅さを恥じた。
それにしても双頭バイブを知っていながら素股を知らないでいられる人生とは。
世界は広い。
地球はでかい。
宇宙は果てしなく、恋人はかわいい。




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