小説

□森田と岡崎 29 真夏の光源
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「あちー」

ペタ、ペタ、ペタ、ペタ。
深夜の住宅街に響くのは岡崎の履いているサンダルの音。
岡崎と俺の他には誰も歩いていない。

「夜でもこんな暑いんだもん。店向かう時間とかほんと地獄だよ」

ペタ、ペタ。

「森田さんなんか荷物運ぶのイヤになんない?」
「……まあ……仕事だから」

まじめ、と言って岡崎は笑う。
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ。
コンビニだけが明るい。
店内にも、客は一人もいなかった。

「もう決めてたから俺これ」
「じゃあ、俺は、これで」
「あーうんそれもウマいよね、一瞬迷ったわ」
「水も、買おうかな」
「飲みながら帰ろ、ちょっとちょうだい」
「うん」

アイスを二つと、水を一本、買って帰る。
帰り道にもやっぱり、誰もいない。
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ。

「あちーな」

岡崎が、着ているTシャツの胸元を掴んでパタパタと空気を動かしている。
俺は半歩ほど後ろで、それを見ている。
綺麗な後頭部だ。造形が、成功している。

「水ちょうだい」
「うん」

ガサガサ。

「森田さんが飲んだあとのがいい」

はっとして脚が止まる。
振り返った岡崎が、すぐそばにいる。
さらに顔を近づけるようにして、岡崎は俺を少し見上げる。

「アイス食ったら、服脱いで寝ようね」

息を止めた俺を、岡崎はまた笑う。

ずっと夏だったらいいのにと、生まれて初めて思った。




-end-
2018.8.10





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