小説

□広樹とラーメン
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「俺、ラーメンの達人になる」

昨日突然あっくんはそう宣言した。食欲の秋だねーと話しながら一緒に本屋をぶらぶらしている時のこと。
雑誌のラーメン特集を見て、美味しそう、これも美味しそう、とわざと密着して話し込んでいたら、突然そう言い出したのだ。

そして、昨日のうちに、ラーメンを作るのに使う材料を近所にある激安スーパーで仕入れた。

今日は決行日。
手伝うと言ったら、最初は嫌がられたけどおしきった。俺は料理なんてしたことがないので、そばで見ていてもあっくんが何をしているのか全然わからない。

昆布とかつおぶしは、昨日から水につけて冷蔵庫に入れて出汁をとってあるんだって。琥珀色の液体はなんだか得体が知れないけれど、嗅いでみたらいい香りがした。

「じゃあこの首と毛のないニワトリさんも水につけるの?」
「その言い方やめろよ」

鶏ガラはお湯でなんかするんだって。なんで違うんだろう。
かわいそうなニワトリさんは、これからあつあつのお風呂です。と思ったら、1分くらいで終了。短いお風呂だ。

「そしたら今度これと一緒に煮て出汁とるから」
「野菜? あ? 人参はヘタのとこでいいの?」
「いいの」
「わあ。ネギも端っこだし……かわいそうだからあひるのおもちゃも入れていい?」
「いいわけねえだろ」

しばらく弱火にかけて、その間、一緒に雑誌を見たりスマホゲーをしたりして過ごした。
それからあっくんは冷蔵庫から取り出した焼豚の様子を見て、ヒマそうにしていた俺に言った。

「ガラ入れたやつ、もういいから鍋あけて」
「ふふふーん」
「おい話聞け。出汁の方捨てるんじゃねえぞ」
「わかったぁ」

シンクにザルを用意して。じゃーっと、鍋をあける。
あれ?
汁が全部なくなって、鶏ガラが残ったけど、これは、えっと、あれ?

「広樹くん、僕の話聞いてた? ちゃんと聞いてたよね? わかるかな?」
「ヒョッ」

誰の声かと思ったらあっくんだった。猫なで声、そして胡散臭い笑顔。怖すぎて息を思い切り吸ってしまい、へんな音が出た。

「出汁を捨てるな、って言ったよね〜」
「そ、そうだね」
「何してたんだっけ? 煮物だっけ? 鶏肉茹でてたんだっけ? 違うよねぇ? 出汁取ってたんだよねぇ? 汁の方が大事だったんだよねぇ? わかってたよねぇ?」
「あ、うん……あっくんごめん怖いごめん……」
「聞いてたよね、広樹くん聞いてたよね、わかったって言ったもんね〜」
「ごめんなさい……」
「次はねえからな」
「はいっ」
「鶏ガラ買いに行くぞ」
「はいっ」
「チョコレートは買わねえからな」
「えぇーっ……あっくん俺チョコ食べたい……」
「一個だけだからな」
「あっくんだぁいすき!」

手をつないで今日も激安スーパーに行く。チョコを二つ買ってもらった。

首と毛のないニワトリさんが再びあっくんの家のキッチンに体を横たえている。さっきの子より少し小柄だ。

「ニワトリさんごめんね……あつあつのお風呂に入れてあげますからね……」
「お前あんま感情移入すんなよ。茹でて出汁とったあとむしって食うんだぞ」
「う……」
「ほら、だから言ったんだよ」
「美味しそう……」
「…………それはよかったな」
「ゴマだれがいいかなぁ」
「俺はマヨネーズか塩胡椒」
「それもいいね!」

さっきと同じ工程をもう一度。本当は少し遅い昼ごはんのはずだったけど、俺のせいで遅めの夕飯になってしまう。

今度はザルの下にお鍋を置いて、無事出汁取りに成功した。

「そんでこれが醤油だれになる」
「焼豚の汁?」
「うん」
「へえ」

だんだんラーメンらしくなってくる。冷蔵庫からは煮卵も出てきた。

「あっくんすごいね」
「麺茹でるぞ」
「はぁい!」
「箸用意しといて」
「おいしそうだね、お腹すいたね」
「お前チョコ食ったろ」
「あれは別腹。てゆーか、あっくんのご飯が別腹?」

なんだか楽しくて、俺はパキパキ動いて割り箸を用意した。コップに氷とお水も入れた。
運ばれてきたラーメンは、焼豚と煮卵の他にネギとしなちくと海苔が乗っていて、本当にお店のラーメンみたいで感動して写真を撮った。

「では失礼して! いただきます!」
「はい。いただきます」
「うっうぉいしい!」
「……気に入った?」

あっくんは無表情を装っているけど、どこか嬉しそう。

「おいしい! あっくんおいしいよ! お店できるんじゃなぁい? すごい! 天才!」
「いや褒めすぎだろ」
「毎日食べたいなぁ、とってもおいしい。また作ってね」
「おう」
「ニワトリさんいい仕事するんだねぇ」
「だな。お前が一羽分無駄にしたけどな」
「あっごめんなさい」
「まあいいんじゃね。あとでむしって食おうぜ」
「うん!」

大事に食べるね。ありがとう。
ご馳走さまでした。



-end-
2018.10.22




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