小説

□後輩が愛おしい
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営業部合同の歓送迎会は、居酒屋の大部屋を貸し切って行われていた。

秘書課から営業課に異動になった塚本の隣には宮園さんが陣取ってニコニコしている。
塚本は、他の社員が宮園さんに話しかけると親の仇を見るような目をしている、ように俺には見える。
実際他人から見ればそうでもないのかもしれない。この二人がここ最近毎日ヤりまくっていることは俺しか知らないからだ。

「はぁ」
「どうしたんですか柏木さん。次もビールですか?」

隣の鳴海が俺の顔を覗き込む。

「ああ。お前、他人の飲み物気がつくようになったな。偉いぞ」
「まだまだですけど、へへ」

褒めると嬉しそうな顔をするのでどんどん褒めてしまい、最近は自分が鳴海に甘すぎることが少し悩みでもある。

「さっきから企画の方の由梨さんがこっちを見てるような気がしますけど、どうしたんですかね?」
「さあな。頭でも悪いんじゃないか」

飲み会が始まる前、由梨が「柏木の隣に座ろうかな」などと言いながら近づいて来たので、由梨の後輩である山内の名前を出し、「今日これ以降俺の半径ニメートル以内に近づいたら山内を弄んでこっちの味方につけ、その上でお前の悪事をバラす」と脅したのだ。
山内のことを思ってか、または流石に男を無理矢理抱こうとしたことをバラされたくなかったのか、由梨はおとなしく引き下がった。

なぜ、諦めないのだ。あんなことをしておいてよく普通に俺に話しかけられるものだ。性欲単細胞の考えることは理解不能である。

「柏木、いつもよりお酒が進んでないんじゃない? どうしたの」

宮園さんが微笑みかけてくる。隣の塚本の目が光ったように見えた。普通に怖い。

「もしかして、例の件?」

宮園さんが心配そうな顔をする。

「何かあったんですか」

それを聞いた鳴海が眉根を下げた。

「何もないよ」
「嘘、何かあったんですよね? 元気がないと思ったんですよ、もぅ」
「何もない。本当に」

こういうことは言えば言うほど怪しい。隠し事があるのだと思われること必至だ。
しかし本当に何もない。
宮園さんはそれをわかっていて余計なことを言って楽しんでいるのだ。
悪魔の遊びだ。

「鳴海には話してあげたら?」
「……柏木さん、どうしたんですか」

優しい先輩ヅラをした宮園さんの隣で塚本まで気にし出した。もっともあれは「俺の宮園さんはいつも柏木とやらを気にかけている。おのれ柏木、お前を吊るして殺す」という意味かもしれない。
宮園さんの話によると、塚本は冗談で済まされないほど独占欲が強いのだそうだ。「すぐ拗ねるんだよ。抱けば機嫌がなおるけど……意外と性欲が強くて快感に弱いんだよね」と話す宮園さんは満面の笑みを浮かべていた。

「柏木さんたら、どうしたんですか」
「鳴海。俺は大丈夫だ。おい宮園さん、いい加減にして下さいよこの野郎」
「俺のせいにしないで」

誰のせいだと言うんだ……。

「ねえ柏木さん」
「わかったわかった、後でな」
「イヤですよ、今、今がいい」
「駄目。あとで」
「もう、もうもうもう! 柏木さんたら! 僕の話も聞いてくださいよぅ!」



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