小説

□幸福な犬
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昔、実家で犬を飼っていた。雄の中型犬で、父が誰かからもらってきたその犬は、妹によって「チョコ」と名付けられた。耳がぴんと立っていておそらく日本犬の血が入っていたチョコは、名前とは少しちぐはぐな印象だったけれど、人懐こくて、誰にでも腹を見せて甘える犬だった。
チョコの気持ちが初めてよくわかる。
撫でてほしい。触ってほしい。好きな人に。そうしてもらえるなら、どんなに恥ずかしい事だってできる。苦しいくらいにそう思う。

「塚本。ただいま」

優しげに笑う宮園さんの前で、俺は犬になる。

しかし、最初の頃の印象を思い出すと、にわかには信じられない現状だ。社長と宮園さんがそういう関係なのだと気づいた時には吐き気さえしたのを覚えている。

「お帰りなさい」

そう言って靴を脱ぐ前の宮園さんに駆け寄り、首に腕を巻きつけてしがみつく。そうしないではいられない。いつも。
すると宮園さんは、ちゃんと抱き止めて背中をポンポンと撫でてくれる。毎日変わらない態度でそうしてくれる人がいることの安心感を、俺はこの人に教えてもらった。

「宮園さん……」
「もう帰ってたんだね」

彼の声はどこまでも優しい。たとえ俺が、抱きついたまま股間を擦り付けるように動かしても、少し困ったように笑うだけで絶対に振り払ったりしない。

「しゃぶらせて下さい」
「先にシャワー浴びちゃだめ?」
「だめ……ああ……お願いです宮園さん」

ずるずるしゃがみこみ、宮園さんのベルトをいそいそと外しにかかる。

「塚本、ね、せめて家に上がらせてよ、このままじゃ……」
「ここで、ここでさせて下さい、もう、んんっ」
「塚本……」

宮園さんのペニスを取り出して、まだ柔らかいそれを口に含む。宮園さんのにおいがして、それだけでほとんどイきかける。
あとで冷静になって考えると自分はどうしてしまったんだろうと不安にもなるが、そうしている間はそんなことを考える余裕が無い。

「ん、ん、っん」
「……塚本」

息を詰めて、宮園さんは俺の頭を撫でる。少しずつ充血してくるそれを、俺は宝物のように大事に大事に舐める。唾液で濡れてきたそれが、すぐにでも欲しくなってきた。でも無遠慮に押し倒して跨ったりは絶対にしない。抱かれる時は宮園さんのペースでないとうまくいかないからだ。
今はただ、宮園さんの射精のためだけに自分を使う。勃起したものの先端が喉の奥に当たるまで深く咥え込み、えずく寸前の感覚が喉を勝手に締めて、宮園さんがひくりと反応するのがわかる。イくより気持ちいい瞬間だ。

「っ、はぁ……気持ちいいよ」
「んんーっ」

気持ちいい。宮園さんがそう言うとまた、触れてもいない後ろがきゅんきゅんと物欲しげに締まった。

カリに舌を這わせ、じゅぶじゅぶと音を立てて先端だけを唇で刺激してから、また深く咥え込む。

「塚本……、ああ……また、口に出ちゃうよ……いいの」
「んっ、んっ」

戸惑いながら声を少し上擦らせる宮園さんに、必死で頷いて見せる。飲みたい。生暖かい宮園さんの精液を、早く、早く、飲みたい。興奮で鳥肌が立つ。

宮園さんは俺の後頭部に軽く手をかけて、腰を突き出すように動かし始めた。決して無理に力を入れることはなく、あくまで優しいその動きに泣きそうになる。もっと激しくしてもいいんです。俺なんか奴隷みたいにしてほしい。無理矢理犯しても、中出ししてぐちゃぐちゃにしてくれてもいい。宮園さんに、好きにされたい。どろどろの欲望はまだ満たされたことがない。
その欲求不満に、俺は自分のペニスからカウパーを溢れさせた。

口で扱いていた宮園さんのものがまたひくりと緊張して、宮園さんがまた息を詰める。

「塚本、あっ、……イきそう」
「んっ」
「出すよ……塚本、塚本っ、っあ、はぁっ」
「んーっ……ん、んぐ、ふぅ、ふ、はぁ、ん」

飲み込む時にごくりと喉を鳴らしてしまい、恥ずかしさで顔が熱くなった。大事にゆっくり飲み込もうとすると物欲しげな音が鳴る。

宮園さんは精液の量が多い。昨日も同じようにしたのに、今日もたくさん出してくれた。涼やかな見た目で誰にでも優しく、仕事もできて穏やかな笑顔を絶やさないし、変態的なこととは無縁に見える。そんな先輩の精液が多いことに、俺はとてつもなく興奮してしまう。それを知っているのはこの世で一体何人だろうか。宮園さんは今まで、どんな人間をどれだけ抱いてきたのだろう。そう考えると、嫉妬で涙が出そうになり、同時に、今この瞬間は俺だけを見ていてくれるという興奮で、縋る手に力が入った。


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