小説

□ほんろう 4
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夏休み期間中の市立図書館は、そこそこ混雑していた。
それでも3階にある第2資料室はしんと静まり返っている。
市の歴史や文化に関する資料室で、貸し出し禁止のマニアックな本や新聞ばかりなので、あまり人気がないのだろう。

こんな所には一生用がないはずだった。

宿題を手伝ってやるから図書館に行こうと連絡を寄越したのは矢崎で、俺に会うための口実かと聞くと電話の向こうで矢崎は押し黙った。てっきりキレるものだと思っていたので拍子抜けして、待ち合わせの時間や場所に言われるまま同意してしまった。

久しぶりに会う矢崎は、少しも日焼けせず、一学期と何も変わっていなかった。つるつるした頬に笑みを浮かべて、久しぶり、と手を挙げる矢崎に、なぜだか少しドキドキした。

「3階に、いい場所があるんだ」

そう言って連れて来られたのがここだ。資料室の奥には木でできた立派な机と椅子がいくつか並んでいるのに、混み合う1階や2階と違って誰も使っていない。

「ここなら中村も集中できるだろ」
「……はぁ」
「宿題、何かやってないのがあるだろ。手伝うから終わらせよう」
「手つけてねえよ」
「は?」
「何もやってねえって言ったんだ」
「嘘だろ」

目を丸くして、矢崎は言葉を失っている。
そんなことより。
こう人気がないところに連れて来られては、手を出さないといけないような気になってくる。

「宿題より俺としたいことがあんじゃねえの」
「無いよ」
「俺はある」

抱きすくめてこめかみに唇を押し当てると、矢崎は持っていた鞄を思い切り床に落とした。乾いた音が響くが、何の反応もない。誰もいない。俺たちの他には。

「俺と2人で会うのに、こういうこと、何も考えなかった?」
「……かんがえ、ない」
「嘘だな」
「そんなこと、」
「なぁ、しゃぶってくんねぇ?」

脚を拡げて椅子に座り、矢崎の腕を引き寄せると、矢崎は大人しく俺の前に跪いた。目が潤んでいる。

「ちゃんとしゃぶれたら、ここでお前の好きなことしてやるよ」

矢崎はごくりと唾を飲み、目を伏せて、俺の股間に手を伸ばした。恥ずかしそうな顔が堪らない。
空調の音が大きくなったような気がした。

少し反応し始めていたものに戸惑う様子を見せながら手をかけ、矢崎が顔を近づけていく。

先端が唇に触れると、ちゅ、とわずかに音がして、思わず深く息を吐いてしまった。そんな俺を見上げるように視線を動かし、矢崎はゆっくりと口淫を深く激しくしていく。

「お前、こんなの、どこで覚えたの」

予想以上に上手い。初めてじゃないのではないかという疑惑が頭をかすめるけれど、それよりも気持ちよさが勝ってしまう。

「んっ、したことない」
「まじかよ」
「んん……」

そして矢崎は明らかに興奮している。落ち着かなげに太ももを擦り寄せるようにして、それでも口を、舌を動かすのをやめない。
あたりはしんと静まり返っている。

「人が来るかもとか、考えねえの、お前」
「んっ……」

矢崎は興奮を抑えるかのように目を伏せ、長いまつ毛を震わせた。
こいつは考えているのだ。人が来るかもしれないと。それに興奮しているのだ。

「……もういいわ。ヤらせろよ」
「ん、え、いやだよ、こんなところで」
「人のちんぽ咥えといて何だよ」
「中村……ダメだってば……」
「俺の上に跨がれ」

矢崎は細身のパンツを履いていて、それを下着ごとケツのすぐ下くらいまでずり下げた状態にして、俺に背を向かせたまま膝の上に抱えあげた。慣らしてもいないのに、そこはクパクパと誘うように蠢いていて、しかもいやらしく濡れているように見える。



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