小説

□にがい、あまい
2ページ/2ページ

脱がされた上半身にメープルシロップを垂らされ、冷たく粘度を保ったそれがゆっくり乳首を通過して、声が漏れてしまう。

「あっ……」

するとすかさず並木がそこへ吸い付いて、優しく舐めとっていく。
俺の体はビクン、ビクンと痙攣して、自分の息だけが荒く、恥ずかしく、何も考えられないほど興奮する。

「気持ちいいの、相内。かわいい」
「はぁ、……っはぁ」

並木は俺の腰に抱きついたまま、器用にそれを繰り返した。舌がくりくりと乳首のまわりを舐めまわし、先端を舐め上げて、しゃぶり、「じゅ」といやらしい音をたてて離れていく。そしてまた、甘い液体が垂らされる。
繰り返し繰り返し。おかしくなってしまう。

「もう、だめ、イく、イくから、並木、」
「乳首で感じてる相内、やばいよ」
「知らない……っ、あ、ん、んっ、まじで、やばいからっ、待て、っ」
「俺ももう我慢できなそう……」

並木が股間を俺の太ももにすりつけて、どれくらい興奮しているかを分からされる。

「挿れるから後ろ向いて」

素直に背を向けてキッチンカウンターに手をつくと、後ろから手が伸びて、また乳首に触れてくる。
そうしながら後ろにぬるぬるしたかたいものがあてがわれ、少しずつ中へ入ってくる感覚に意識が飛びそうになった。

「っあ!」
「はぁっ、あ、すご」
「や、っあ、んく、うぅ」
「もう、動くね、相内、相内っ」
「ああっ……!」

すぐに激しく腰を使われて、ガクガク揺さぶられる。腰を掴んでいる並木の手だけが優しい。

「あっ、待って、鍋の……せっかく用意、途中までしたのに、っ、ん」
「っ、ふふ、それ今言うの」

苦し紛れにそんなことを言うと、並木が少し笑った。それにまた興奮がつのる。

「野菜出してくれたんだもんね。はぁ……わかってるよ、大丈夫……っあ……良かった、包丁出す前に気づいて……」
「あっ! ん、んっ、」
「あとでインスタントラーメン突っ込んでラーメン鍋にしよ、だから大丈夫……ここ気持ちいい?」
「んんっ」
「あ、すげ、俺も気持ちいい……」

ぱちゅぱちゅと、濡れた肌がぶつかる音が響く。
忘れた頃に並木の指が乳首に触れてきて、その度にうしろを締め付けてしまう。

「やばい、出そう」
「ダメ、相内、はぁっ、我慢して」
「無理、もう出る」
「あっ、相内、まだダメ、」
「なん、で」

意識がふわふわして来てもう射精することしか考えられないのに、並木に言われる「ダメ」のおかげで限界ギリギリでストップがかかる。

「たくさん我慢させた方が、イった時の反応ヤバいって聞いたから……」

誰から、と聞きたいけれどそんな余裕はない。話している間にも並木は容赦なく奥を突いてくる。

「ああっ、並木っ、い、いく」
「だめ、ダメ、まだ出さないで」
「んん……や、やばい待って、ほんとに、あっ、あ、」
「相内……中すごいよ、ん、あ」

普段は俺の言うことを否定せず何でも受け入れるのに、今日は本当にどうしたんだ。俺だってできる限り並木の言うことを聞きたい。それでもやっぱり限界は来る。だって乳首をつまんでこねくり回されながら中を擦られたら、俺じゃなくても、こんな、ああ。

「もう無理、出る、あっ、あ、出る、イく、イっちゃう、あ、」
「っ、相内」
「あーっ……! あ! や、ぁっ」

射精がいつもよりずっと長く続いた気がした。というより終わらない。もう出るものはないはずなのに、性器のさきからトロトロと透明の液体が零れているのを、激しい快感から来る痙攣の中でぼんやりと見ていた。

「すご、相内やば、っはぁ、めちゃくちゃかわいい……中もすごい、うねうねしてる、つかすごい、締まって、やばい俺も、もうイくね、出すよ、相内、っ」

並木が何か言っていた気がするし、並木が射精するまで中を擦られていたのに、ただただ気持ちいいという感覚しか残っていなかった。
気づくと二人してキッチンの床にへたりこんでいた。

「すご。相内すごかった。あんなイき方してんの初めて見た」

はぁはぁと息を弾ませながらも、並木はなんだか嬉しそうだ。
汗やら何やらで体がベトベトだ。気持ちが悪い。何よりも先にシャワーを浴びたい。
よろよろと立ち上がりかけ、何かが引っかかって並木を見下ろした。

「なんか、誰かから何か聞いたとか言わなかったか」
「たくさん我慢させた方が反応やばい、ってやつ?」

そうだ。それだ。

「野村がこの前、女の子との話でそう言ってたんだけど。本当にそうなんだなぁって思った! 相内もだったよって今度報告しなきゃな」

嬉しそうな並木に、つい足が出てしまった。

「いた! 蹴るなよ」

並木が子犬のような目で見上げるのを無視して洗面所へ向かう。
人を蹴るなんてこと、普段はしない。今のお前だからた。

「野村に、今日のこと、言ったら、別れるからな」

一言一言区切るようにしっかり宣言をする。こうでもしないと本当に言いそうだからだ。

「えっなんで?!」
「は?」
「怖!」
「シャワー浴びてくるからご飯作っといて」
「相内、相内、ごめんて」

いつもよりずっと疲労感が残っていて、並木が謝るのを背中で聞きながら、バスルームの扉を閉めた。
ああ。なんだか本当に疲れた。疲れた疲れた。

温かいシャワーを浴びながら自分の醜態を思い出す。あれはどういった反応なんだろう。自分の体なのにメカニズムがわからなくて混乱した。
それに一番わからないのは並木の口の軽さだ。天然も限度を超えると恐怖を覚える。

『ダメ、我慢して』

シャンプーを泡立てながら並木の声を思い出す。並木にあんなに駄目出しされるのは初めてだった。最後の最後までちゃんと言うことを聞いた俺は偉い。

『ダメだよ相内』

頭の泡を洗い流しながら、腹が立つのに妙に何度も思い出してしまう。不思議だ、と思いながら気づく。並木の声を思い出しながら勃起していた。
嘘だ。どうして。でも答えは簡単だ。
それは、気持ちが良かったから。

「っ、」

ボディソープを泡立てた手を性器に添えて、ゆっくり扱く。
一人でするのは本当に久しぶりだった。
シャワーを出しっぱなしにして、万が一声が出た時の保険をかける。

あんなに激しくイってたくさん出したのに、まだ足りないのか。どうして熱が残ってしまったんだろう。

くちゅくちゅと音を立てながら手を動かし、もう片方の手を壁について、ふわふわしてきた体を支えた。

シロップを乳首にかけられる感覚、吸われる音、挿入されている時に並木が俺を呼ぶ声。

「はぁ……っ」

いつもする時よりずっと早く限界が近づいて、そういう時の並木の、余裕のない顔を思い出す。
あの指が優しく、俺の乳首を。

「あ……」

我慢できずに、自分の指で乳首をつまむ。ものすごい快感が体を走り抜けた。
壁に寄りかかって手を動かしていると、キッチンで並木が何か独り言を言うのが聞こえた。

『我慢して』

「ん、あ、っ」

思い出すだけでは意味がなくて、一人でしても全然我慢ができない。
呆気なく射精してしまった。何より、後を引くような、痙攣までしてしまうような快感には、一人ではもう到達できない。

悔しいような、でもとても愛おしいような気持ちを胸に押しとどめるようにして、俺はもう一度頭から熱いシャワーを浴びた。






-end-
2023.1.21


前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ