小説
□願い、空に放つ
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力強い程の青空に、刷毛で一筆入れたような白線。
飛行機雲がゆっくり伸びていく。
怜はクラスメイト数人とスーパーから学校へ戻る途中、じりじりと迫る残暑の日差しにうっすらと汗を浮かべていた。
手には数枚の段ボール。かさばって持ちづらい。
「アイス食いてぇ」
隣を歩いていた藤波が、熱に浮かされたような声で呟いた。
「そうだね」
怜は答えながら、ずり落ちそうな段ボールを持ち直す。
「れーい!」
正面から呼ばれて顔を上げると、同じ制服の集団の中で櫻井花菜が大きく手を振っていた。
もうすぐ文化祭。
今日からその準備期間で、クラス毎の展示や出し物のための材料集め組が、校門を出入りしている。
「怜も段ボール集めだ。非力なのにねー」
駆け寄った花菜が軽口を叩く。
「俺の半分も持ってねぇし。アイスおごれ」
藤波も乗っかる。
「藤波先輩は余裕で人の2倍くらい持ってるじゃないですか。さすがラグビー部」
ボブの頭を傾げて花菜が笑っていると、後ろから彼女の連れらしき何人かが追い付いた。
その中の一人が花菜に声をかける。
「櫻井、ベニヤ板何枚か聞いてきた?」
「あ、忘れた!山上さんに確認するんだった」
「いいよ、俺訊いてくるから先行ってて」
声をかけた男子生徒が応じる。
長めの黒髪が揺れて、形の良い耳がのぞいた。
「ついでにさぁ、これ一緒に運んであげてよ。非力な先輩が倒れそうになってるの」
花菜が怜の段ボールを指差して言ったので、怜は慌てた。
「いいよ、運べるよ」
「何先輩ですか?」
頼まれた男子生徒は既に怜の持った段ボールに手を伸ばしていて、怜と花菜を笑顔で見比べながら訊いた。
目にかかった前髪がうるさいのか、一瞬頭を振った。
「泉井怜先輩。私ちっさい頃から知ってんだ。親同士が仲良くて。まあ怜は今もちっさいけどね」
「花菜よりは大きくなったんだけど」
小さく反発すると倍になって返ってきた。
「私より女の子みたいでしょ。色白だし、ゆるいパーマかけたみたいで茶色がかってるけどこれ地毛なんだよ。かわいい顔してむかつく」
「容赦ねぇな」
藤波がニヤリと笑う。
怜は、花菜のこの手の発言にはもう慣れている。
「こっちは同じクラスの大貫颯太くんだよ」
軽々と段ボールを持ち上げてしまった彼に「ありがとう」と言うと、怜より頭一つ分高いところから無言で笑顔を返された。
くっきりした真っ直ぐな目に、少したじろぐ。
隣で藤波が、おいずるいぞ、アイスとコーラおごれ、と騒いでいる。