小説

□王子と姫の日常。
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「姫野、チョコナッツとキャラメルクッキー、どっちがいい?」
「チョコ」

右手のアイスクリームを手渡して、姫野の横に座る。


冬休み中の日曜の今日、屋内ショッピングモールは家族連れやカップルで混雑し、外の寒さが嘘みたいに暖かかった。


横に目をやると、僅かに舌を覗かせながらアイスを食べる姫野は、ベンチの向かい側にあるフレッシュジューススタンドを見つめていた。

「これ食べたら、ジュースも飲む?」

視線を追われていたことが気まずかったのか、姫野は若干眉をひそめて目を泳がせた。

「いらない」

姫野は甘いものが好きだ。

「じゃあほら、こっちも食べる?」

食べかけのアイスを差し出すと、姫野は何も言わずにあーんと口を開けた。


くそっ…無自覚でデレた!


コーンごと持たせようとしていたことはおくびにも出さず、開けられた口にアイスを近づけると、姫野は一口かじって俺を見た。


「何。ニヤニヤしてキモい」
「いや、かわいいなと思って。おいしいね」
「ん」

姫野が仏頂面で、自分のアイスを俺に向けたので、一口もらう。



姫野と俺はこれから、中川のライブに行く。

『今度の日曜ライブ誘われたから、1人でもいいんだけど、本城も、ついて来て、も、いい、けど』

なんとも歯切れの悪い誘い文句と一緒に差し出されたチケットを受け取って、我慢できずにそのまま押し倒してしまった。

きっと精一杯譲歩して誘ってくれたに違いない。
そういうところも本当に好き。

せっかくだからその前に少しデートしようと言うと、いいけどベタベタニヤニヤ変態みたいなことしないでね、と釘を刺された。



「アイス、どっちが好き?」
「…本城は?」
「姫野が食べたあとのとこがおいしい」
「ばかじゃないの」

冷たい視線を笑顔で受け流して、パリパリとコーンをかじる。


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