小説
□8 彰人の焦燥
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「あっくんなに食べる?」
「豚串と」
「俺も」
「レバーと」
「俺も」
「若鶏の唐揚げネギソースと」
「あーんっいいっ!半分こして?」
「チーズオムレツと」
「キャアァ!一緒に食べる!」
「チゲ鍋」
「あっくんがふうふうして食べさせてね?」
「あとたこわさ」
「じゃあたこわさは俺があっくんに食べさせてあぐえっ」
「喉って人の弱点らしいけどどうよ」
「そうですね間違いなさそうです」
あっくんたら場所を選ばず攻撃してきちゃうんだから。勃っちゃうんだからねっ。
俺とあっくんは2人で居酒屋に来ている。
俺の友達がバイトしててクーポンくれたし、飲みほにビール入れてくれるって言うし、何より俺はあの奇跡の宅飲みの日以来またあっくんと飲みたくてうずうずしてむらむらして大変なのだ。
「注文しよっ。ビールも頼む〜」
「まだフード注文してないのに2杯目かよ」
「あっくんも飲んでね?いっぱい飲んでね?」
「失礼しまーっす!」
掘り炬燵の個室までとっといてくれた友達が注文を取りに来た。
見た目のチャラさに磨きかかってる。またピアスも増えてる。こんなんでよくバイトできるな!
「あ、正浩!今日ありがとね!あっくん、高校の同級生の正浩だよ」
「ども」
「どうも!広樹もうグラス空じゃん。ビール?」
「うん!あとフードがぁ」
さっきのあっくんの注文を繰り返す。
「りょーかい。少々お待ちください」
「ねぇねぇ正浩、発泡酒の飲みほにビールとか入れてもらって大丈夫なの?」
「おう!知り合い来たらやっていいことになってんだ」
「へぇー、すごいねあっくん」
「たまには俺とも遊べよ」
正浩が俺の頭を撫でる。撫でながらチラチラあっくんを見てる。
「えぇーいいけどー。でも俺はあっくんが最優先だからっ」
あれ?なんか正浩の顔がひきつった気が。
「え、…あっくんて、えっと」
「彰人くんていうの。すごいイケメンでしょ?俺の超愛して止まない恋人!ねぇあっくん、そうだよね?ね?」
あっくん、目つきがやばい怖い。
なんか2人とも空気重いー。つまんないー。
「そ、うなんだ」
「正浩?どしたの?」
「いや、別に。じゃ、ちょっと待ってて」
正浩は個室を出て行った。
「変なの。いつもはもっとノリいいんだよ?ごめんねあっくん」
「あ、いや……あいつって」
「なぁに?」
「お前と…友達?」
「そうだよ」
「ただの友達?なんもねぇの?」
「ないよ?…あーなになにぃ、気になる?ねぇ気になるの?」
「別に」
「嘘ばっかり!『くそっ、あいつ俺の広樹の何なんだよっ…ギリィ』みたいな?」
「違う!バカか!」
「あっくん…ねぇ…」
「なに」
「掘り炬燵の個室ってエロくない?」
「は?」
「あっくんの隣に座る」
「やめろ!個室で向かい合わないで隣に座ってるやつなんか見たことねぇよ!」
「やだやだやだやだ!座るもん!」
俺は無理矢理あっくんの膝に向かい合うように座った。
「それは隣って言わねえんだよ!」
「ああそうだよ!上だよ!あっくんの上だよ!」
「開き直んなよ!」
「ねぇいいでしょ?」
「わかった、待て、頼んだの全部来たら構ってやるからとりあえず膝から降りろ」
「はぁい。あっくんはなんでもいいから早くお酒飲んでね?」
「なんで」
「失礼します、ビールお持ちしま」
入ってきた正浩が、あっくんの膝に座る俺を見て固まった。
「広樹…お前ほんとに…」
「あれ?知ってるよね?俺がゲイなの」
「いや、そう、じゃなくて……くそっ」
正浩はビールを置くとさっさと出て行ってしまった。
「ぜーったい変!なんか機嫌悪いみたいっうわっあっくん?」
あっくんが突然ビールを一気に飲み干した。
「だ、大丈夫なの?空きっ腹だし、具合悪くなっちゃうよ」
「平気」
「そ、そう?」
どうしたんだよみんな!大丈夫かよ世界!
俺はあっくんの膝を降りて横に座り、ぴったりと寄り添った。
次々に料理が運ばれてきたけど、あれ以来正浩が来てくれない。忙しいのかな、混んでるみたいだし。
あっくんのお酒のペースは俺の半分くらいだけど、宅飲みの時みたいになんかいい感じに黙ってきたし、俺の方チラチラ見てる。いいね!
「あっくん、大丈夫?」
俺は上目遣いであっくんを見る。あっくんはこれに弱い。ウフフ、知ってるんだから。