小説

□さくら色の君を想う
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また、桜の季節がやってきた。

その年、クラス担任を外れた由井(ゆい)は、副担任と教科担任を受け持つクラスの生徒たちを教員席から見渡していた。真新しい制服が眩しい。目を細めながら、由井は眼鏡を指で押し上げる。

ステージ上では校長の新入生への挨拶が続いており、毎年行われるこの行事はつつがなく進行されていた。

私立高校の中でも屈指の進学校であるこの学校に由井が新任教師として赴任してから、4年が経っていた。
毎年、3年生が卒業しては新入生が入学する。どんどん入れ替わる顔触れ。

由井が初めて担任を持ったクラスの生徒たちが、この3月に卒業した。それなりに悩みもしたが、皆が無事3年間を過ごし、笑ったり泣いたり冗談半分に由井の白衣のボタンを欲しがったりしながら校舎を去っていくのを見て、これでやっと少しは教師らしくなれたのかと感慨に浸ったのがついこの間。全てがいい経験、いい思い出に、ゆるりと移ろっていく。

新年度に合わせておろしたばかりのパリっとした白衣を着て、由井は穏やかな気持ちでパイプ椅子に座っていた。



式典が無事に終わり、生徒たちは列を成して教室に戻る。
由井は職員室に寄ってから、実験準備室に向かった。

化学や生物学、物理学などを担当する理科教師は全部で8人。その中で、化学担当の由井が1番若い。備品の管理や整理を任され、俄然準備室にいる時間が多かった。担任を持たない今年は益々入り浸りそうだった。

終業のチャイムが軽やかに響く中、小型電気ポットでお湯を沸かす。

煎茶の香りが立つ中、由井は湯飲みを持って窓際に立った。湯気で眼鏡がうっすらと曇る。

入学式には最高の、穏やかな晴天だった。新しい顔ぶれ、新しい教科書。また最初から、全てが始まっていく。

準備室の窓から、下校する生徒たちがちらほらと見えた。由井はぼんやりとそれを見ていた。
その中に、新しい友人たちと並んでわずかに足を引きずる生徒を見つけた。周りに比べて背も体格も少し小さい。茶色がかった髪の毛が、太陽の光を反射していた。

なんとなく、その生徒が校門から外に出て姿を消すまで見送ってから、由井は雑務を片付けるために机に向かった。






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