小説

□さて、どうでしょう
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いつもの居酒屋。今日も混んでいる。

この店に近い駅が俺たち4人の家のちょうど中間地点だから重宝しているが、今日は珍しく相内に誘われて2人で飲んでいた。

会う直前までこの間の行為がちらついてしまい、平常心で会えるのか心配だった。だけど、先に店に入っていた相内がきれいさっぱり忘れたように普段通りだったので、俺は少しほっとした。

相内と俺の組み合わせだと圧倒的に俺が話す割合が多くて、相内はいつものように聞き役に徹してくれる。
ゲソの唐揚げや若鶏のガーリック焼きをつまみながらビールが快調に消費され、俺はまた相内よりも先に酔ってしまった。

そんな中おもむろに相内が言った言葉は、俺を動揺させるのに充分な威力を持っていた。

「は?いやいや、……え?」

高校の同級生でなんなら俺より背も若干高くて女の子にモテる眼鏡で無口な理系男子。そう、うん。男子。
相内。

「ごめん、俺そんな飲んだかな、なんか空耳だったみたい。もう一回言って?」
「だから、」

相内はいつもの無表情で繰り返す。

「もう一回ちゃんと…ヤってみたいとか考えなかったかって」
「な、何言ってんのおま、お前、は、え、ちょっとやめろよな、そんな冗談言うタイプだったっけお前、ちゃんとって何だよ、…いやいやキモいだろ、」
「……キモいよな」

一瞬痛そうな顔をした相内に、自分の言葉のトゲを知る。

「あ、っ違う、キモいっていうのはお前のことじゃなくてさ、いや思った、俺正直お前にヤらせてもらってから違う意味で女の子とヤれるのか心配になるくらいお前の体とか声とか忘れられなくて夜1人でお前思い出しながら抜いたし」

ほんのりと赤くなって珍しく表情を変えた相内に、自分が言い過ぎたことに気付いた。

「だから…、俺がキモいって、いう意味なんだけど…ごめん、俺、お前のことちょっとそういう目で、…見るようになっちゃった」

言ってしまった。あの日からずっと考えていたことを。もうふざけて抱きついたり絶対できない、だって、だってあの日の相内の抱き心地とか思い出したら俺は。
相内にはあの日、忘れてと言った。でももう無かったことにはできない。少なくとも俺の中にはしっかり刻まれてしまったから。

どうしてこうなった、と俺が下を向いて考えていたら、相内がふっと笑った気がして顔を上げた。
目が合う。
眼鏡の奥の、切れ長の目。
俺は無意識にごく、と喉を鳴らしてしまった。

「並木の家で飲み直したい」

俺はいいよ、とかうん、とか呟いてから、相内のその言葉を勝手にやらしい意味に変換してしまい、ぶんぶんと頭を振ってそれを追い出そうとした。

相内が呼び出しボタンを押して、店員に「会計を」と言うのをドキドキしながら見守った。



途中、コンビニで少し酒を買う。なんだか緊張してあまり話せなくて、元々無口な相内との間に沈黙が流れた。
横顔を盗み見ると、相内の表情はいつも通りで、俺はまたそのことに安心する。

そんな俺たちの行く先を、白っぽい猫が横切って行った。



「ほい、ビール。つまみがないな。何か買えば良かった…あ、チーズあった。賞味期限あやしいけど」
「ありがと」
「うお!奇跡!ポテチもある!」

床にあぐらをかいている相内の隣にドス、と座ってポテチの袋を開けた。ビールも開けて顔を上げたら、思ったより近くに相内がいて驚いた。でも相内の方がびっくりしてるみたい。

ですよね。だって別に隣に座る必要ないですもんね。

「ごめん…近かった」

少し離れようと床についた手に、相内が手を重ねてきたかと思えば、いきなり唇を塞がれた。
一瞬びくっとしたけど、やわやわとくっついてくる唇に、俺は抗わなかった。

今度は成り行きじゃない。仕方なくじゃないし、なんとなくでも、試しにでもない。
2人の意思だ。
それを認めるのが怖いような気もしたけれど、相手も同じ気持ちだと思えば欲望に火がつくのは早かった。

舌でこじ開けるようにして口内に侵入し、相内の舌を掬う。濡れた粘膜の感覚が、俺から考える力を奪っていく。
焦りそうになる舌の動きを相内がゆっくりたしなめるように受けて、相内のペースにはまっていった。

夢中になって相内の舌を貪っていたら、いつの間にか相内の手が俺のベルトに伸びていて、カチャカチャと外しにかかる音がする。

「ちょ、と待っ」
「いや?」
「やじゃねぇ、けど」
「キモい?」
「キモくない!」

全力で否定してから激しく照れて相内の顔を見られない。
いいんだろうか。こんなことして、本当に大丈夫だろうか。俺たちは。

相内は、じっとしてろ、と言ってパンツの隙間から俺のものを取り出した。それをぱくっとくわえられて息が止まる。



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