小説2
□15 釣り からの
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つってもまぁ主に動くのは正浩だけど。
「正浩!テントどうにかして!なんだこれ、もっと分かりやすく作れっつーの」
「正浩、疲れたから先にイス出せ」
「あれ、なんか釘みたいの折れた。まぁいいや。ねぇ正浩、喉乾いた!冷たいのどこ?」
「うっわなんか広樹にキモい虫ついてる」
「ふん。虫がなんだ。俺が怖いのはあっくんを失うことだけだ」
2人でぎゃあぎゃあ言ってたら、もくもくテキパキともう片方のテントを完成させた正浩が呆れ顔でこっちを見た。
「お前たち…テントは2人用と4人用でいいんだな?」
「2人が俺とあっくんだからね!」
すかさず広樹が叫ぶ。
わかったわかった、と言いながら、俺は正浩と目を合わせてニヤリと笑う。
あー!夜が楽しみすぎる!
ちょっと勃った。
*
「あ、きたかも」
「彰人くんすごいね!」
僕は全然釣れないのに、彰人くんはもう5匹目だ。
太陽はまだ高い位置にあって、早起きしたからなんだか得した気分。今日は得してばっかりだな。
「彰人くん」
「んー」
かかった魚をルアーから外して、彰人くんが僕を見る。
「連れてきてくれてありがとう。本当に楽しい」
素直な気持ちを伝えたら、彰人くんは照れたみたいに顔を少し下へ向けた。魚をバケツに丁寧に入れる。
「いや。俺もよかった。なつめ連れてきて」
キュンてしちゃったもうキュンて。これはモテるはずだよ…。
「そろそろ腹減んない?」
「そうだね、お昼にしよっか」
僕たちは小さい七厘とスーパーで適当に買ったお肉を持って来ていて、彰人くんが釣った魚も焼くことにした。
「なんか少しかわいそうだけど」
「うん。2匹だけ焼いてきれいに大事に食べよう」
「うん」
神妙な気持ちでバケツの中を覗いていたら、彰人くんがふっと笑った。
「なつめは優しいんだな」
なんだこれ。僕、乙女ゲーの主人公みたいになってないか。絶対なってる。そしてこれからなんかハプニングが起きて2人でどっかこの辺で一夜を過ごすことになって、選択肢が
@一緒に寝ようって言ってみる
Aおやすみ、と背を向けて寝る
B一枚しかない毛布をかけてあげる
とかでどれ選択しても結局彼の腕の中で朝を迎えることに!やばいR指定じゃないか!
僕、バリタチなのに!
とか考えていたら魚が美味しそうに焼けていた。
「はい」
「ありがとう」
彰人くんが焼けたのを取ってくれて、それを串ごと受け取る。
「いただきます」
「いただきます」
心を込めて言ってから、かぶりついた。
「おいしいね」
「ん」
彰人くんが川の方を見ている。
「本当に気持ちいいね」
「そうだな」
横顔もイケメン。
僕たちはしばらく黙って魚を食べた。
「あ、ぼーっとしてたらお肉も焦げちゃうとこだ」
僕は慌てて焼けたお肉をお皿に取り、彰人くんに渡した。
「はい」
「さんきゅー」
その時、網に残っていたお肉の油がバチッと音を立てて、僕の顔に跳ねた。
「あち!」
「大丈夫か?」
目をつぶって痛かった瞼を押さえていたら、その手をそっと掴まれて退けられ、向こうから彰人くんの顔が覗く。
「どこ。目か?」
「うん…瞼…」
「ちょっと見せて」
近い…近いよ彰人くん…あっ、だめ…僕には創樹くんが…創樹く…創樹くんごめんこんな…
「ぅおおおおおああああああああああなっつうううううううごる゛ぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
聞こえるはずのない声が聞こえたと思ったら彰人くんが僕の後ろを見て変な顔をした。
そして僕の背中に衝撃が。
スーパーバッドエンド…
*
広樹の我慢が限界を超えて、昼過ぎに合流することになってしまった。まぁ、なつめは十分彰人に接近しただろう、きっと計画は大丈夫だ。
思いっきり膝蹴り食らったなつめの体が大丈夫かわかんないけど。
と思いながら、正浩と一緒に3人へ近づく。