小説2

□16 彰人の入浴
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「おっきいお風呂?!行く!俺も行きたい行く行く俺も行くーっ!」
「…いいよ、1人で行く」
「やだやだ!行きたい行きたい行きたい!!!」

俺は溜め息をつく。諦めよう。

「…いいか。公共の場だからな。絶対に騒ぐなよ」
「うんっ!」
「べたっとくっついたりすんなよ」
「うんうん!」
「抱きつくのもだめだぞ」
「はぁい!」
「俺に触るなよ」
「…なんか…寂しいよあっくん…」
「お前が我慢できる気がしねえんだよ」
「なるべくがんばるからっ!努力するから!善処するから!お願いお願いおねがぁい!」



家の給湯器が壊れた。
管理会社に連絡すると、修理は明日になると言われ、今夜は近所の小さな温泉に行くことにした。

つい口が滑ってそれを広樹に言ってしまったのだ。
非常に面倒なことになった。





小綺麗なその施設には、引っ越してきたばかりの頃に一度来たことがあった。小さいながらも内風呂がいくつかと2種類のサウナがあり、その時はそれなりに賑わっていた。
今日は夜遅いのでそれほどでもない。

「ねえ、あっくんあっくん」
「何」

脱衣場のロッカーの前で服を脱ごうとしたら、広樹が小声で話しかけてきた。とりあえず周りに気を遣っているらしい。えらいえら

「服脱がして」
「死ね」
「うわぁ、久しぶりに言われた」

広樹はなんだか楽しそうだ。

「じゃああっくん脱がしてあげようかって早っ!もう脱いだの?タオルいつ巻いたのさ!くそっ!チラ見しようと思ってたのに!」
「先行ってるから」
「あぁん、待ってよ」

洗い場で頭を洗っていると、広樹が隣に座った。

「あっくん早い」
「お前が遅いんだ。女子みたい」
「…あっくん女の子とお風呂行ったことあるんだ…」

まただ。

5人でキャンプしたあの日以来、広樹のやきもちや独占欲がかなり激しくなっていて、ちょっとしたことを気にしてすぐに落ち込む。
付き合い始めた頃に戻ったみたいだ。

「まあ、あるけど」
「……ふぅん」

広樹は頭にシャワーをかけ始めた。ふわふわの髪が濡れていく。

とりあえず放っておいて顔と体を洗い、ゆっくり頭を拭きながら、隣の広樹に目をやる。

広樹はシャンプーを終えてコンディショナーに手を伸ばした所だった。

「お前コンディショナー使うんだ」
「え?あ、使うよ?だってパーマで傷んじゃうんだもの。家ではトリートメント使うよ。あっくんはしないの?」
「しねえな」
「した方がいいよ?傷むよ?ハゲるよ?まぁ俺はあっくんがハゲても好きだけど」

広樹が丁寧に髪を洗うのを、膝に片肘をついて見守る。

「だからお前の頭、いっつもいい匂いすんだな」

つい普通のトーンで呟いてしまった。広樹の隣に座っていたおやじが一瞬ぎょっとした顔でこちらを見た。

「もうっやだぁあっくんたらぁ!いっつも嗅いでるのぉ?あっくんもすっごくいい匂いするよ?俺はイケメンの匂いって呼んでるんだけど」
「わかった。もうわかったから早く終わらせろ。先風呂入ってる」
「うん!すぐ行くからまだ出ないでね」
「ん」

おやじの視線が痛くて俺は先に湯船へと向かった。



「あっくん、お風呂気持ちいいね」
「後でサウナ入るけどお前は?」
「サウナって入ったことない」
「まじか」
「なんか苦手で、暑くて」
「じゃあ先に出てれば」
「いやだ!一緒に行く」
「倒れるぞ」
「いいの!大丈夫!ダメそうだったら出るから」
「具合悪くなりそうだったらすぐ言えよ」
「はぁいっ。イケメンあっくんまじイケメン〜エロい〜イケメン〜」
「変な歌やめろ」

サウナには誰もいなかった。

「むわっ、あつっ」
「大丈夫か」
「うん!わー貸し切りだね」

俺たちは並んで座って、しばらくぼうっとテレビを見ていた。

「あっく、ふぅ、あっつい」
「無理すんな。出てなんか飲んでれば」
「やぁだぁ、あっくんと、ふぅ、いっしょに、ふぅ、」
「いやいやいやいや、ふぅふぅ言ってんだろ。じゃあ水風呂入ってまた戻って来い」
「ああ!水風呂ってそのためにあるの?」

行ってきまぁす、と言って広樹がふらふらと出て行った。

入れ替わるように誰かが1人で入ってくる。別に気にしていなかったのに、いきなりすぐ横に座られて少し驚く。

「にいちゃん、イケメンだね」

は、と思ってそっちを見ると、いかにも鍛えてますみたいな体格の、いかにも…な人がこっちを見てにやりと笑った。




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