小説2

□もう友達じゃないと思った日
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「おうおう!」
「久しぶりー」
「かんぱーい」

なみなみとビールの注がれたジョッキが4つ、ガチャンと勢いよくぶつかった。

場所はいつもの居酒屋。
4人で集まるのはかなり久しぶりだった。

向かいに座った柿崎と野村が旨そうにビールを流し込むのを眺めてから、隣の相内にちらりと視線を送る。

相内はジョッキを置いて、目の前に置かれた「本日のオススメ」に目を落としていた。
眼鏡の奥で伏せられる睫毛。

相内に会うのは一昨日ぶりだ。お互いバイトが終わった後に1時間だけ会った。
俺が、少しでいいから顔が見たいとわがままを言ったのだ。
そういう時、相内は面倒くさがったりしない。どうにかしようとしてくれる。
まあ、会おう会おうとテンションが上がったりもしないけど。

そんなことも全部、柿崎たちは知らないのだ。

「元気?並木元気か?大丈夫かその後」

柿崎の声に、俺は相内から視線を剥がして、考えを巡らせた。

柿崎たちには、彼女と別れてうだうだした姿を見せたのが最後だった。

「あ?あーうんうん大丈夫大丈夫」
「ちゃんと勃ってるか?」
「うんもうそれはそれは元気で困っちゃうくらい」

野村に即答してから、はっとして相内を見てしまった。

相内は無表情で俺を見ていたけど、目が合った瞬間、微かに動揺したみたいだった。

『なぜ俺を見る』

相内の顔にはそう書いてあって、変な間が開いた。

「えーなによ、並木もう彼女できたのかよ」
「いや、彼女、は、いない」
「彼女は?じゃあなんだよセフレ?」
「いや野村じゃねえし」
「いや俺セフレはいねえし」
「なんで相内の方見たの?」

柿崎うるさい黙れ、と俺は念を送る。

「まさか相内と風俗行ったとか…」
「いやだから野村じゃねえんだから」
「風俗なんかなくても俺には友達がたくさんいるからな」
「野村、それセフレって言うんじゃねえのか」
「お前らは?」

全然助けてくれないと思っていた相内がやっと口を開いた。

「野村は相変わらずだけど、俺はちょっと気になる子がいる」
「へー!なになに、なに繋がり?」
「大学の友達がさー」

相内のお陰でうまく質問責めをまいて、久々の話に花が咲く。





と思ったのに、話題は戻ってきた。

「あの日の並木はひどかったよなぁ」
「そうだよ、『一生ひとりで生きるんら』とか言ってさぁ。かと思えば『勃たないのやらぁ』って泣きそうな顔して」

野村も柿崎も、酔い潰れてクダをまいた俺のことをよく覚えていて、心からいたたまれない。

「でもよかったな、勃って」
「野村が扱いたお陰じゃねえの」

そう言われるまで忘れていた。
あの日、相内ととんでもないことになって上書きされていたけど、野村にも触られたことを思い出して青くなる。

なんとなく。
なんとなくだけど、相内の顔を見るのが怖いので、黙ってビールを飲み干した。

「相内は?まだ彼女作る気ないの?」

野村が聞いて、隣からは、んー、と唸る声が聞こえた。

「高校の時の前原覚えてる?巨乳の」

野村の質問で薄ぼんやりと思い出したのは、かわいい顔をした隣のクラスの、小柄な、おっぱいの目立つ女子の姿。

「あいつの友達が相内に会ってみたいっつっててさ、」
「だめだめっ!そういうのは!」

気付いたら俺がお断りしていた。

なんでお前が、という意味の込められた野村たちの視線を受けて息が止まった俺の耳に、相内の柔らかい声が届く。

「好きな人がいるから」

それって俺のこと、とすぐにでも聞きたい気持ちを抑えて、相内の顔を盗み見る。
相変わらずの無表情は、俺の方を見なかった。

なんだぁそうなんだ、と、柿崎たちは次の話題に移っていく。

柿崎と野村は変わらない。

俺と相内の関係だけが変化して、4人で遊ぶ時も、俺にとって相内だけが特別になってしまった。

相内はどうなんだろう。
お前にとって俺は、柿崎や野村と何が違う?




柿崎がトイレに立って、その直後に野村の携帯が鳴り、ごめん電話だわ、と断ってから野村は電話に出た。

相内は何も言わない。

今、何を考えてる?
やっぱり、4人で普通に友達できる方がいいと思ったりしてる?
窮屈だとか面倒だとか、考えてない?




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