小説2

□大切
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はっと目を覚ますと、床に座った彼が俺の顔を覗き込んでいた。
目が合って散ってしまったけれど、確かにその顔には滅多に見ないような真剣な表情が浮かんでいて、俺は思わず彼の頬に手を伸ばした。

「なに」

短く言って離れようとするのを逃さず、ソファに引き上げる。

「あゆちゃん、癒せよ」

ぎゅっと抱きしめると、抵抗するように彼はもがく。

「会いたかった」

背中や頭を撫でるとすぐに大人しくなった。

彼はたまに、こっそり俺の匂いを嗅いでいる。

「キスするつもりだった?」
「は?んなわけないだろ」
「じゃあなんで見てたんだよ」
「べっつに」
「素直になれって」
「うるせえな、もう放せよ」

本格的に抵抗し出した彼を、俺はありったけの想いを込めて抱きしめる。

「もう少しこのままでいて。本当、会いたかったよ」

すると彼は珍しく、俺の顔を真顔で見た。

「働きすぎじゃね。すげえ疲れてるじゃん」

俺はしばらく黙って彼の顔を見つめ、その言葉を噛みしめた。

「なんだよ。きもちわるいっ」

居心地が悪くなったのか、彼は手で俺の顎をぐいっと押した。
俺は堪えきれずに微笑んだ。

「今はもう疲れてない。お前の顔見てたら元気になったわ」

来てくれてありがとうな、と言うと、なぜか彼はまた怒り出した。

「嘘つけ」
「何が」
「疲れてるじゃん」
「いや?もう大丈夫」
「仕事、そんな大変なのかよ」
「別に」
「っ、お前!」

彼はガバリと起き上がり、ソファの脇に立って俺を睨み付けた。

「俺は浩介の子どもじゃねえんだよ!」

俺は意味がわからず、とりあえず起き上がって座った。
彼はまだ目をつり上げている。

「大変だとか疲れてるとか、俺に隠すことねえだろ!そんなに年下が頼りないならもう別れれば!」

俺は、自分の隣をぽんぽんとたたいた。

「歩。とりあえず座れ」

自分の言葉にショックを受けたみたいに固まってしまった彼を、引き寄せて座らせる。腰に手を回して彼の顔を覗き込んだ。

「お前、そんなこと思ってくれてたのか」

彼はわざと目を逸らし続けている。

「悪かったな」

頭を撫でながら頬にキスをした。

「まあ、さっきまでは疲れてたんだけど、今はすげえ回復したわけよ。なんでかわかるか?」

彼は返事をしない。

「大好きな人がわざわざ会いに来てくれたから。しかもその人は俺のこと心配してくれて、それだけで疲れなんかどっか行く。本当だ」

横から抱きしめても、彼は抵抗しなかった。

「なぁ、歩。好きだよ」

彼の髪にキスをする。

「だから、別れるなんて言うな。お前から見ればオッサンだけど、我慢して」

すると彼は、落ち着かないような素振りで少しだけこちらに顔を向けた。相変わらず視線は交わらない。

「別に、俺は別れたいとか思ってねえし…」

俺はわざと返事をしなかった。
続く言葉を全部聞いておきたかった。

「…オヤジとか言ったけど……別に思ってないし…」

それから?
俺は声に出さずに問う。

「とにかく好きで一緒にいるんだから俺はいいんだって!」

ふん!と声が聞こえそうな勢いでそっぽを向いた彼を、俺はとても愛しく感じた。

「俺のこと、好きで、一緒にいるんだって?」

好きで、にアクセントをつけて意地悪く聞いてやると、背を向けた体から裏拳が飛び出してきた。
手のひらで受け止める。
パシッという音がした。

「あっぶねえなぁ、あゆちゃん怖い」
「ふざけんなよ!俺は真面目に言ったのに!」
「好きなの?俺のこと」
「知るか!あほオヤジ!」
「騒ぐなってクソガキ」

彼の手首を掴んでこちらを向かせる。最上級にむくれた頬を手で包み、親指で肌を撫でる。

「ほんと、かわいいよ、お前は」

唇に優しくキスをすると、彼の体から力がふっと抜けた。

「あゆちゃん、ちゅう好き?」

至近距離で、逃げられないようにして、俺は聞く。

「あゆちゃんやめろ」

その声にはもう威勢がない。

「歩」

彼は耳元で囁かれることに弱い。

もう一度キスをして、やっぱりもう一回、今度は少し深いキスをして、それから俺たちはベッドに移動した。









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