小説2
□変わらないでいたい
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野村が借りたコテージは、10人で泊まっても狭く感じないくらい大きかった。
さすがというかなんと言うか、女の子は5人とも野村と顔見知りで、みんなそこそこかわいい。
男はいつもの4人プラス野村の友達が1人。
車2台に便乗して着いたのは午後遅く。
そこからみんなで手分けして準備し、バーベキューをした。
季節はもうすぐ夏。天気も穏やかで、外で過ごすには最高のロケーションだった。
俺は適当に女の子たちと話しながら、時々相内を盗み見た。
愛想がいいとは言えないけど、頭の切れそうなあの感じはモテるに決まっている。
表情乏しいけど地味に優しいし。
眼鏡エロいし。
今日はTシャツにカーディガンを羽織っている。相内にしてはカジュアルな格好。
かわいい。
視界に入れる度にそう思った。
なんか邪魔されるなと思えば、俺の隣にはいつもゆなちゃんという女の子がいて、すごくたくさん話しかけられた。
相内と付き合う前なら即狙っただろうなと思う。
こういう少しキツそうなタイプが好きだった。
今はなんとも思わないけれど。
辺りが暗くなり、場所をリビングに移してまったり中。
お酒も入ってみんな楽しそうだ。
そんな中、なぜか俺は女の子たちに構われていた。
こういう役は、モテる相内か女の子の扱いがうまい野村が担当のはずなのだけど。
半分からかわれてるのかと思いつつも相手をする。
「なぁなぁ、そんなに並木イジリ楽しい?」
柿崎がみんなに聞くと、女の子たちは口々に言う。
なんか放っておけない、とか。
天然でかわいい、とか。
弟みたい、とか。
モテ期到来?
もう必要ないんだけどな。
酔った野村が、じゃあぶっちゃけ並木狙いの人は、と聞いたらなんと3人が手をあげた。
女の子たちも相当酔ってるみたいだ。
「怖いからあと2人は聞かない」
柿崎が言ったけど、残る2人は多分相内と柿崎狙い。
野村とその友達が顔を見合わせた。
「並木だけはいつも格下だったのになー」
野村が全然悔しくなさそうに言う。
そうでしょうね、お前は別にここで彼女できなくてもいいもんね。
さっきのゆなちゃんという子が、ねえ彼女いないんでしょ、と言って擦り寄ってきてさりげなくボディタッチをしてくる。
俺はバレない程度に離れたり避けたりした。
すると焦れたのか、小声で部屋に誘われた。
積極的な子だな、と思った。
それ以外にはなんの感慨も湧かなかった。
ふと目だけで辺りを窺うと、今の俺がモテたい唯一の人の姿がなかった。
「あれ?相内は?」
「さっきトイレ行ったよ」
「じゃあ俺も」
なんだよ並木勝ち逃げかよ、という野次を背中に受けて苦笑しながら、俺は廊下に出た。
相内は、トイレじゃなくて部屋にいた。
電気もつけず、カーテンの開いた窓から差す月明かりの中で、ベッドに座ってぼうっとしていた。一瞬声をかけるのを躊躇った。
暗がりで相内を見たら、ドキドキした。
相当、重症かも。
触れたい。今すぐ。
部屋に入ると相内は顔をあげて、どうした、と言った。
「居なかったから。寂しいじゃん。戻んねえ?」
近づいて相内の頬をふわっと撫でると、その目が一瞬伏せられた。
キレイなまつげ。
これ一本一本、全部、俺のものだし。
「相内、行こう?」
満足して踵を返しかけると、相内に呼び止められた。
「ちょっと、戻りたいと思ってるだろ」
「うん、戻ろう」
「違う。みんなのところに、じゃなくて」
体ごと相内に向き直り、その意味を考える。
「戻る?」
相内はうなずいて少し笑った。
「並木。怒らないで聞け」