小説2
□お兄ちゃんと僕のこと X
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お兄ちゃんが、日曜日の夕方にプールに連れてきてくれました。
「プールプール」
「葵、こら、走るな」
だって早く入りたいから早くきがえなきゃだめだから急ぎます。
ロッカーの所に行ったら、お兄ちゃんが僕のタオルとかパンツとかを渡してくれました。
「ちゃんとしまっとけよ」
「うん!ねえお兄ちゃん、海パンはいてきた?」
「うん」
「新しいパンツは?」
「持ってきたよ」
「パンツさぁ、前学校のプールだった時さぁ、かけるが忘れたんだよね、それでね、あ!お兄ちゃんの海パンかっこいい!」
僕の海パンはハーフパンツみたいなやつだけど、お兄ちゃんのはなんか小さくてぴたっとしてます。
「あっちょっと、触っちゃ……」
「んー。早く行こう?」
「あ、お、おう」
僕はお兄ちゃんのパンツにさわろうと思ったけど、そんなことよりプールだと思いました。
もう夕方だから、あんまり人がいません。
「葵、準備運動したか?」
「したしためっちゃした」
「危ないから、絶対走っちゃダメ。わかった?」
「わかったわかった!もういい?入る?」
「いいよ」
「うおー!」
「葵、危ないよ、飛び込むなよ?」
うるさいお兄ちゃんはおいといてプールに入りました。
僕は学校で、クロールができるようになりそうだから、もうちょっとだから、練習したいです。
まだ入ってないお兄ちゃんの方を見たら、お兄ちゃんはサッカーをやってるから、あしに筋肉がついたり、お腹も筋肉でポコポコしてるし、やっぱりすごいかっこいいです。
お兄ちゃんも首をこきこきしながらプールに入りました。
「お兄ちゃん、僕ね、クロールもう少しなんだよね」
「やってみ?」
「お兄ちゃんできる?」
「できるよ」
「見たいな!やって?」
僕が言うと、お兄ちゃんは、いいよ、って言ってかっこよく笑いました。
一回水でバシャッて顔を濡らしてから、お兄ちゃんは泳ぎ始めました。
「すごい…速い!」
お兄ちゃんのクロールは静かで速くてすごいきれいでした。
お兄ちゃんはむこうまで行って帰ってきて、僕の目の前まで来てザバーッて立ちました。
「うわぁ、びっくりした!あはは」
「はは。どうだった?」
「すごいねお兄ちゃん!かっこいい!お兄ちゃん大好き!」
僕はぴよーんって飛んでお兄ちゃんの首に飛び付きました。
お兄ちゃんは、葵かわいい、って言ってぎゅっとしてきました。
僕はもうお兄ちゃんにクロール教えてほしいから下りたいのに、お兄ちゃんはぎゅうぎゅうってしたまま放してくれません。
僕はもう飽きてつまんない。
「お兄ちゃん下ろして。僕泳ぐから」
「ああ、うん」
お兄ちゃんから離れて、僕はお兄ちゃんにクロールを見てもらいました。
「葵、息する時にちゃんと顔上げないと」
「うん」
「腕の動きはいいよ」
「先生にも褒められたよ」
「そっか」
たくさん練習したら疲れたから、あとはお兄ちゃんと水をかけたり潜ったりして遊びました。
「お兄ちゃん、抱っこして歩いて」
「はは、葵、赤ちゃんになっちゃったの」
「なってない」
僕はちょっと恥ずかしくなって笑っちゃいました。でもお兄ちゃんがかっこいいから、僕はくっつきたかったし、抱っこして遊んでほしかったです。
「お兄ちゃんさぁ」
「うん」
僕は抱っこしてもらって水の中を移動しながら聞きました。
「お母さんほしい?」
「お母さん?…俺はもういらないかな」
お兄ちゃんは真面目な顔で言いました。それから僕を見て優しい顔をしました。
かっこいいなぁと思いました。
「葵はほしい?」
「僕はねー、たまにほしい」
「…そっか」
お兄ちゃんは、僕をぎゅってしました。
「寂しい?」
「ううん。さびしくないよ。お兄ちゃんがいてくれるし」
本当は少しさびしい時があります。お兄ちゃんが部活で遅い夜とか、雨が降ったりしてたらちょっと怖いし、トイレに行くときにろうかの電気を全部つけたりします。
お母さんがいたら、そういうことがないかもしれないからです。
お兄ちゃんはまた僕をぎゅうぎゅうってしました。
「葵……ごめんな」
「なんでお兄ちゃんがごめんなの?」
「んん。わかんないけど」
お兄ちゃんは僕の首にちゅうをしました。
だから僕もお返しにお耳にちゅうしました。
「っ葵」
「うわぁ」
なぜかお兄ちゃんが手を放したから僕は落ちそうになってお兄ちゃんにしがみつきました。
「あっん葵、どこ蹴ってんの」
「ごめんお兄ちゃん」
僕はお兄ちゃんの海パンのところに足をぶつけてしまって、海パンが少し下がってしまいました。
「お兄ちゃんごめん、ははは、パンツ脱げちゃいそうだ」
僕は笑ったのに、お兄ちゃんはなんか赤くなっています。