小説2
□21 広樹の彼シャツ
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「あっくん、雨止まないねぇ」
「いいんじゃね。今日はもうこのまま家で」
「勉強はしないもん!」
「しろよ!」
広樹はいつもレポートの提出期限当日まで粘る。
前日ではない。当日だ。あり得ない。
「あーあー買い物行きたかったのに!」
多少の雨なら買い物くらい行けるけれど、今日の雨は容赦ない降り方で、近くのコンビニに行くのも躊躇してしまう。
「明日大学帰りに寄れるだろ」
「んーそうだけど」
この間約束した、揃いのアクセサリーが買いたいらしい。
「とりあえずレポートやれ」
「やだよぅめんどくさい」
「俺は土日バイトだし、今日終わらすけどな」
「なんで!俺がいるのに!つまんない!」
「だから今日一緒にやればって言ってんだろわかんねぇやつだな」
参考資料とパソコンを交互に睨む。
あと1時間もあれば終わるだろう。
「やぁ…あっくん、怒ったの?」
広樹が悲しそうな声で言いながら背中に抱きついてくる。
「怒ってはねえよ」
「本当に?」
首にぴとりと柔らかい感触。キスをされているらしい。
「お前がガキみたいだから」
「うぅん…じゃあさあ、コンビニ行こう?」
「は?」
「チョコ食べたらがんばれる」
「やっぱりガキだな」
「ねぇ行こう行こうあっくん」
二の腕を引かれて渋々立ち上がる。
「じゃあチョコ食ったらがんばれよ、俺は当日ギリギリで手伝うのは嫌だからな」
「うんうんうん!チョコ食べながらがんばろう?」
「がんばるのはお前だって」
「傘は一本でいいよね」
「聞いてんのか」
玄関のドアを開けると、雨粒があらゆるものを叩く音が響き渡る。
「うわうわ!なんかワクワクするね、あっくん」
キラキラした笑顔で俺を見上げる広樹に、苦笑が漏れる。
「お前今度長靴買ってやろうか。黄色くてキャラクターついたやつ」
「ちょっと!それって幼稚園の子のやつじゃないの!」
わいわいしながらコンビニに行って、チョコとアイスを買う。
コンビニの床も、掃除が追い付かずにつるつると滑った。
家に戻る頃には傘の意味は無くなっていて、2人ともずぶ濡れだった。
「あっくん乳首透けてる!激エロなんですけど!」
「ちょっと待て、お前頭も濡れてんだけど。タオル持ってくるから。傘さしてたのになぜ頭」
だって、と言って広樹は俺を見上げる。
「あっくんの背の高さの傘だったら俺は意味ないもん」
「…あぁ」
気づかなかった。
「ごめんな」
「いいの。大丈夫。ね、あっくん、着替え貸して?タンス漁っていい?」
「ん」
アイスを冷凍庫にしまい、自分の体を適当に拭く。
広樹の頭を乾かそうと洗面所からドライヤーを持ってきたところで、広樹が戻ってきた。
その姿に絶句する。
「これがちょうどよかったぁ、ふふ」
「……そうは見えないんだけど」
広樹は俺のカッターシャツを着ている。サイズが合っていなくてタプタプしている。裾と袖が長すぎる。
それはいい。それは置いておこう。
なぜ下も脱いだ…。
「下も濡れちゃったしぃ…下はあっくんの絶対合わないしぃ……」
広樹はもじもじと膝を擦り合わせながらチラチラと俺を見た。
彼シャツ……!これ、彼シャツの上目遣い……ヤバい。
「お、おう…」
「大丈夫?あっくん」
「早く髪、ほら、乾かすぞ」
動揺が半端ない。
本当にヤバい。
俺、これ弱いかも。
「あー!乾かしてくれるの?やったぁ」
床に座って笑顔で見上げてくる広樹の後ろに座り、ドライヤーのスイッチを入れた。
手を動かしながら、投げ出された足に、膝に、太ももに目を奪われる。
下着はうまく隠れていて、晒された白い肌を見ていたらムラムラした。
触りてえ。
「んふふ、あっくん温かい」
「よ、よかったな」
「大好き。あっくん」
俺の胸にすりすりと頬を寄せてきた広樹の半乾きの髪から、トリートメントかなにかのいい匂いがした。
またか、また流されるのか、と思いながらドライヤーを置く。
「どうしたの…?」
「どうしたのじゃねえよ、わざとだろ、誘ってんだろ?」
ゆっくりと太ももに指を這わすと、広樹が目を伏せながら微かに体を震わせた。
「ねぇあっくん、俺のこと、好き?」
「あ?」
「勃っちゃう?俺見て」
「うるせえ、早く触らせろ」
照れ隠しで愛想のない声を出すと、広樹は膝立ちになって俺の方を振り返った。
「あっくん、パンツ脱ぐからぁ……見てて?」
広樹は潤ませた目を少し伏せて、手をシャツの裾から中に入れた。
ゆっくり下がる下着が見えて、無意識に喉が鳴ってしまった。
んふ、と笑った広樹は太ももまで下着をずらすと横座りになり、俺を上目遣いで見る。
「……意地悪して…?」
ばか野郎。本当に、殺したいくらいかわいい。
でもな。
「さ。レポートやるぞ」
「えー!」