小説2

□森田と岡崎3
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同窓会に行く人の気が知れないと、俺はずっと思っていた。

過去の自分や友人や思い出を懐かしみ、変わったり老けたりしたことを自慢し合いながら飯を食うことのどこが楽しいのか、全く理解できないと思っていた。

気が合うやつとはずっと付き合いが続いているはずだし、それ以外の人間に会いたいと思う意味がわからなかった。

そして今もやっぱり理解できないままだと思いながら、俺は手元の携帯の液晶を見つめる。

『今日、中学の時なかよかったやつらと飲んだよ!軽いどーそーかいみたいな感じでなつかしくてヤバかった!ぎゃーぎゃーうるさかった女子がママになっててまじあせったんだけど!!』

だからなんだと言いたいのを我慢する。
メールなので、返信をしないことでその気持ちが伝わってしまうかもしれない。
どっちでもいい。
どっちだっていいんだ。

うるさい。岡崎。

俺は携帯を閉じる。

岡崎からは、こうやってたまに一方的にくだらないメールが来る。俺は返信したことがない。それでも岡崎は送ってくる。

岡崎の店へ配送に行った時に、森田さんメール見た、と聞かれて、はいと答えるのがもう恒例になりつつある。

今までの俺の人生の中で、思い出して楽しめるような時代などは無い。
それに、ずっと続いている気の合う友人というものも、俺には存在しない。




「ずっと思ってたんだけど、森田さんの方が年上なのに、なんで俺に敬語使う?」

伝票にサインしながらさらっと放たれた言葉にまた苛立つ。
そう思うならお前も敬語を使え。
と思うが、無言で伝票を受けとる。

岡崎は相変わらず忙しそうで不健康そうだ。
でも俺が納品に行くと必ず出てくるようになった。
不可解極まりない。

「森田さん、22歳くらい?」
「25です」
「ええっ!まじで!若く見えるね!言われない?」

一瞬首を横に振ることで否定を示し、毎度です、と言って会話をぶったぎる。

「またメールするね」

綺麗な笑顔を向けられ、迷惑だからメールをやめてほしいとは言えなかった。

最近の俺は、岡崎に対する「どうして」で埋め尽くされそうだ。

人と密に交わることをずっと避けてきた。こっちが拒絶すれば大抵は向こうも俺を拒絶した。
親や兄弟すらそうだった。

最低限の付き合いだけをこなし、あとは1人でいるのが楽で面倒がなく、このままが一番幸せだと思うのに。

どうして岡崎は、拒否し続ける俺から離れようとしないのだろう。





 *





『また一緒に図書館行っていい?』

メール作成画面を開いたまま寝たらしく、気づいたら起きる時間になってた。

「はいはい、また今日も仕事ですか、本当にクソおつかれさま俺ー」

また燃料切れだ。気分が落ち込む。

店長が戻るまであと1週間。予定通りに行けばだけど。
動けない店長の代わりに店を回して、バイトのみんなの不満が溜まらないようにコミュニケーションをとる。
発注や店の管理は分担すればいいんだけど、そこはバイトの中では俺が一番わかってる自信があるし、教えてる暇もないし。

店長戻ってきてもしばらくは前みたいに動けないだろうし、今の状況っていつまで続くんだろう。

落ち着いたら店長に盛大に甘えよう。休みもらおう。つか有給もらってもいいくらいじゃね。まじでもうこれ社員になれんだろ。

休みもらったら、森田さんと会いたい。
図書館以外の場所で、ちょっとだけでも会えないかな。
森田さんが好きそうな場所を思い浮かべる。

広くて人があまりいないような公園、とか。
すっげえ田舎の川辺、とか。
ビルの屋上、とか。
色気ない場所ばっかだな。

でも基本、人がいない場所が好きだろうな。
美術館とか、何かの展覧会みたいなのも好きそう。

森田さんはきっと、タバコの煙が嫌いだろう。
ゲーセンやパチンコ屋みたいにガチャガチャうるさい場所も嫌いだろう。
休みの日のショッピングモールとか人気のカフェとかも嫌いだろうな。

森田さんの好きなものや苦手なことを想像するだけで、どうしてこんなに癒されるんだろう。

仕方ないから今日もがんばるか。

携帯の液晶に視線を落とし、メールを作り直した。





 *





今日のメールはまた一段と意味不明だ。

『森田さん、いつもありがとう。』

俺は何もしていない。メールを無視し続けて、配送の時は逃げるようにして岡崎に背を向ける、ということ以外。

考えたら、少し申し訳なくなった。



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