小説2

□2人
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女の子となら、セックスしてもいいよ。

園田が言ったのは、とても寒い日だった。
2人の家のちょうどまんなかくらいにある、小さな児童公園。
もう5月だというのに風が冷たくて、俺は着ていたカーディガンの袖をできる限りのばして手を覆っていた。
園田はすべり台の階段を上って、こんなに低かったかね、と言って笑った。
俺はブランコの周りにある真っ赤に塗られた柵に浅く腰かけて、下を覗き込む園田をぼんやりと見ていた。
空は灰色で、いかにも寒そうだ。
小さいころ、暗くなるまで2人でここで遊んだ。
母親が仕事で遅くなりそうな日はあらかじめ園田の家に連絡が行って、この公園でたっぷり遊んでから2人で園田の家に帰った。
いつも嫌というほど一緒にいたのに、そういう日は特別だった。
ずっと園田と遊んでいられる。
夜遅くまで。
園田のお母さんの作る手料理は、自分の母親のそれの何倍もおいしい気がした。
思い出すと胸がきゅんとする、穢れない思い出。
もう遠い日々。
ずず、ずずず、と、滑らかでない音をたてながら園田は靴の裏ですべり台をずり落ちてきた。
寒いね、と言いながら園田は俺の目の前まで歩いてきて、まっすぐ俺を見上げた。
そしてポケットに手を突っ込み、下を向き、言った。

女の子となら、セックスしてもいいよ。

俺が初めて園田に好きだと言った日、園田は俺にキスをした。
一緒にいすぎてもう他の人間なんか目に入らないよね、わかる、と、園田は笑った。
キスをされて、キスを返した。
もう、俺のこれからの人生は決まったと、そう思った。
園田のために。
誰が何にどう反対して来ようと、俺は園田を守るために生きていく。
園田のためならなんでもできる。
そう、思ったのに。
俺たちはすぐ壁にぶち当たった。
何度挑戦しても、俺と園田のセックスはうまくいかなかった。
やり方が下手なのか、園田の方が俺を受け付けないのだ。
園田は最初、俺、ケツの穴がちっちゃいのかな、と言って笑っていた。
俺も苦笑いを返して、それで触りあって終わった。
俺はこっそり情報を集めて、試した。
多分、園田も同じだったと思う。
今日はこれを使ってみよう、今日はこういう体位でしてみよう。
でも、何をしても、俺と園田は体を繋げることができなかった。
俺はどうしても園田と繋がりたいというわけではなかったので、諦めてもいいかなと思うようになった。
抱き締め合っているだけでも、十分幸せだと思えたから。
でも、園田は違った。
だんだん自信を無くしていくように見えて、そばにいていたたまれなかった。
距離が離れていくような気がして怖くなった。
そんなことはどうでもいいんだ、俺は園田と居られればそれでいい。
何度説得を試みても、園田はうんと言ってくれなかった。
そのうち、自分とじゃない方がうまくいくかも、というようなことを言うようになり、俺はそれをずっと聞き流していた。
本当はそんな言葉は聞きたくなかった。
でも、何もしてやれなかった。
その結果が、その言葉だった。

「それ、本気で言ってるのかよ」
「仕方ないよ、俺とじゃできないんだから」
「俺は何回も、できなくたっていいって言ったろ」
「それじゃ、お前がかわいそうすぎるよ」
「ふざけんなよ、意味分かんねえ」
「我慢することないって、そう言ってんだよ」

園田は下を向いたまま泣いていた。
お前がどう思ってたって、俺はお前に抱かれたいんだよ、でもそれが叶わないんだから、自分のせいでそれが叶わないんだから、もう自暴自棄だよ、仕方ないじゃん。
泣きながら、園田は笑った。
笑ってから、また顔を歪ませた。
やっぱり、お前は俺とじゃ幸せになれないんだよ、俺とじゃ、なんか欠けてるみたいにいつか物足りなくなっちゃうんだよ。
言葉の最後は嗚咽にかき消されて、園田は子どもみたいに泣いた。

俺は園田を残してすべり台に上った。
階段は、通れるか通れないか、ギリギリの幅しかない。
ここを当たり前のように駆け上っていた。
園田と競うようにして。
嗚咽は小さくなったもののまだ続いている。
よく聞いてろよ、バカ。
息を限界まで吸い込んで、顔を空へ向けた。

「俺は園田と幸せになる!」

今度は、ブランコの方を見る。
泣き止み、目を見開いてこちらを見上げる園田に向かって俺は叫ぶ。
絶対ぜったい、お前を幸せにしてやる!お前が幸せじゃない時は、それは俺のせいだから、自分じゃなくて俺を責めろ!俺は絶対お前を裏切ったりしない!全部受け止める!だから!だから、
ダンダンダンッ
すべり台を駆け下りたら、3歩で地面についた。
そのままの勢いで泣き虫に駆け寄り、ぶつかるようにして抱き締める。

「頼むから、俺をもう少し信じろって」

くぅ、という声が聞こえて覗き込むと、園田はまた泣いていた。

「どうしたらできんのかな。な、がんばろ、2人で」

園田が求めるなら、俺はそれを叶える。
絶対に。
冷たくなった園田の背中をごしごしと擦ると、摩擦で手が熱くなった。
あったかいね、と、泣いた後の声で言い、園田が笑った。






-end-
2013.6.7


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