小説2

□安達さん、シット。
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帰宅すると、部屋の電気がついていて驚きました。

寝室に入ってさらに驚きました。
ベッドに人がいたからです。

「誰?」

異様な格好のその人の顔を、僕は恐る恐る覗き込みました。
しかしそもそもどこが顔にあたる部分なのかがわかりません。
その人は眠っています。僕のベッドですやすやと。

「あの」

声をかけながらむき出しになっている肩に触れると、その人は小さく唸りながらむくりと起き上がりました。

「みっちゃん!帰ってたの!」

その声を聞いて僕はうんざりしました。
知っている人だったからです。

「安達さん」
「みっちゃんお帰り!」
「とりあえずそれを取って下さいね」
「それ?…あ」

安達さんはそう言ったまま固まりました。

「どうやって入ったんですか」
「合鍵を…作っておいたんだ…」

驚愕の事実です。

「どうしてタンスを勝手に漁るんですか」
「タンス?漁ってないよ?」
「まさか」
「洗濯カゴから取りました」
「何してるんですか!」

安達さんはすごすごと顔に被っていたそれを取りました。
申し訳なさそうな顔をしていますが、それでも十分にうつくしい顔です。

「だって。みっちゃんが遅いから」
「だからって、勝手に他人の家に入って使用済みパンツを被って全裸でベッドに入っていいと思うんですか」
「いいかどうかは私が決めます」

やけに凛とした態度で言われて、僕の方が間違っているように感じてしまいました。

「そんなに自信たっぷりに言われても」
「私の趣味嗜好をみっちゃんにとやかく言われる筋合いは無いのでは?」
「ありますよ!僕の家ですし僕のパンツですから」
「うん。それもそうだ」
「服を着てください」
「それよりみっちゃんも脱げば」

安達さんはうつくしい顔で僕を見ています。

「安達さん」
「さあ。お風呂に入ろうではないか」
「僕はそれよりお腹が空いているんです」
「ああ忘れていた。シチューを作ったよ」
「えっシチュー!」

そう、シチュー、と得意気に頷いた安達さん。
僕の好物を熟知しているのです。

「お風呂にお湯をためておいたんだ。だから、一緒に入ろう。そしたらシチューを温めてあげるから」
「ビーフですかクリームですかどっちなんですか!」
「それはさておき、さあさあ、そんな安物のお洋服なんか脱ぎ捨てて。できればTシャツの脇のところの匂いを嗅がせてほしい」
「お断りします」

僕の言葉を気にした風もなく、全裸の安達さんは鼻唄を歌いながらお風呂場へ向かいます。

「みっちゃん」
「はい」

安達さんはうつくしい顔で振り向きました。

「愛しているよ」

僕は安達さんが恐ろしく変態であることを、こう囁く安達さんを見るとすっかり忘れてしまうのです。

すっかり忘れて、安達さんに飛び付きたくなってしまうのです。





安達さんは、アパートの隣人です。

学生でバイトずくめの僕とは違い、安達さんの日常はとてもゆったりしています。

学生でもないし、働いている様子もありません。

それでも着ているものは小綺麗で高そうだし、しょっちゅうお寿司の出前を取っています。

それについて安達さんは、実家が金持ちでとか、何年か前に宝くじが当たったとか、毎回適当なことを言っています。

だったらどうしてこんなぼろアパートにいるのかと聞くと、みっちゃんが住んでるからに決まっているでしょう、と言います。

でも僕たちはそもそもこのアパートで出会ったのだから、それも適当な作り話です。

安達さんは、隣の部屋の僕が家の鍵を開ける音を耳ざとく聞きつけて押しかけてきます。

それがエスカレートした結果、安達さんは僕の家の合鍵を作り、僕が履いたパンツを被って服を脱ぎ捨て、ベッドに入ったという訳です。











「ああ、すごいよみっちゃん」
「やめ、もう、も、やめて、くださいっ」
「みっちゃん、今日バイト忙しかった?汗かいた?すっごくいい匂いがするよ、興奮する」

お風呂場で安達さんは、手を壁についた僕を後ろから激しく突き上げながら、首筋や頭や脇の匂いを嗅いでいます。

「まだ、からだ、あら、ってない、のに」
「洗うだなんて勿体ないことを言わないで。みっちゃんっ、んんっ、素敵だよ」
「こんな、こ、こんなっ、こんなにされたら、僕、」
「ダメだよ、まだイかせない」

そう言うと安達さんは僕をバスタブの縁に座らせ、その向かいに跪きました。

「みっちゃん。足」
「ひっ、イヤです!あっ!」
「そんなこと言わないで。ね。少しだけ!少しだけ舐めたいっていうただそれだけだから!」
「警察!警察ー!」
「みっちゃん酷いよ!君の大好きなシチューを作った私を国家の犬につき出すのか!」

安達さんは僕の足首を掴んで無理矢理足の親指を口に含みました。

「だって、だって!あっあぁ…あん……」
「なんてかわいい足なんだ。これはもう足ではない。アンヨだね」

じゅるじゅるじゅぷじゅぷと音をたてて安達さんは僕の足をしゃぶります。



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