小説2
□23 イケメン探し 始まりの日
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「創ちゃん、いたぁ?」
「全然いねえ」
「俺も。はぁ、今日は諦める?イケメンってか男子学生多いって聞いてこの大学にしたのに、女子と半々くらいじゃない?」
「男子多いのがいいなら理系行けよ」
「無理だもん!数学も物理も無理だもん!創ちゃんだってここにしたくせにぃ」
「俺は文系男子を狙ったんだ」
「ふぅん」
顔も声もそっくりな双子が並んでぶうぶう言っている。
服装や髪型は好みが違うらしく、正反対の様相。
入学したての大学の学食で、あまりおいしくなさそうにパンやおにぎりをかじりながら、キョロキョロと辺りを見回している。
「あ」
「あぁっ!みっけ!」
2人同時に一点を見つめて声を上げた。
その視線の先には。
「隣、いい?」
「どうぞ。あ、さっきの必修ゼミにいた?」
「おう」
「よろしくね。混んでるね、学食」
席をつめて迎えた方は、茶色がかった長めの髪に、柔らかい笑顔を浮かべた色白の男子学生。
悪い、と言いながら後から掛けた方は、短めの黒髪にシンプルな服装でも十分目立つくらいの男前。
2人も新入生の模様。
「名前は?」
「なつめ」
「名字?」
「ううん、名前。ひらがなで」
「へえ。綺麗な名前」
「そうかな。ありがとう」
なつめが照れたように笑った。
「あなたは?」
「彰人」
「名前?」
「名前」
2人が笑いあっているところへ近づく双子。
眼光は獲物を狙う肉食獣のよう。
真っ直ぐに2人のところへは行かず、その向かいの席に座っていた上級生と思われる3人組に、双子のうちの茶髪の方が話しかける。
「あのぅ、この席ってもう空きますかぁ?」
混み合う昼時、今食べ始めたばかりの3人は顔を見合わせる。
「空きますぅ?」
構わず上目遣いで3人のうちの1人を見る双子の茶髪。
「あ、いや俺たち今食べ始めて」
「空きませんかぁ……?」
「……空きます」
「おい!」
「わぁい!ありがと!」
揉めながらも席を立った3人と入れ替わるように双子が席につく。
向かいに座る彰人となつめをチラ見しながら、双子は鞄から書類を取り出した。
「あぁん創樹、俺ペン忘れちゃった」
「広樹、頭痛薬持ってねえ?お前がキモすぎて頭いてえわ」
彰人となつめは向かいに座ったそっくりな双子、広樹と創樹を珍しそうに見ている。
「どうしよーう!今日までに教務課に出さなきゃいけないのに!ペンがないよう!」
「頭いてえっつってんだろ、騒ぐなようるっせえな」
見兼ねた彰人は鞄からペンケースを取り出し、ケースごと広樹に差し出した。
「えぇ?!貸してくれるの?」
「どうぞ」
「ありがとう!優しいね!ねえねえ1年生?」
彰人が頷くと広樹は目を輝かせた。
「一緒だぁ!学部は?」
「経済」
「あぁん!同じー!えへへ」
「頭痛ひどい?薬あるけど、いる?」
なつめが控えめに申し出ると、創樹はこめかみを押さえながら僅かに頷いた。
「お水持ってくるね」
なつめは食べかけのラーメンを置いたまま立ち上がった。
「双子?」
彰人が広樹に聞く。
「そうなの。似てる?」
「似てる。でも全然違う感じ」
「どっちが好き?」
「え?」
「うふー、なんでもないよ」
なつめが水を持って戻ってきた。
「はいこれ。良くなるといいけど……」
心配そうに水と薬を差し出したなつめを、創樹がじっと見つめる。
「……ん?どうしたの?」
「名前は?」
「なつめ」
「なつめ、ちょっと付き合って。午後の講義あんの?」
「うん、1講だけ」
「休める?」
「あ、えっと」
「ちょっとだけ。もっと美味いラーメン奢ってやるから。なつめ」
「う、あ、うん、じゃあ彰人くんまたね」
名乗った側から呼び捨てにされ、強引に連れ去られるなつめ。