企画小説

□広樹のおねんね
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ひろき

おい



――む?……あっくんの声……うふふ…



大好きな声に起こされる幸せったらない。

「広樹」
「んー?…うー…」

目を開けると、あっくんが上から覗き込んでいる。
俺、あっくんの膝枕で寝てたんだ。
フゥ!しぁーわせー…

「お前が観たいっつって借りたDVDなのに終わったぞ」
「え?そうらっけ?」
「そうらっけじゃねえよ。おら、どけ」
「やぁん、冷たい冷たいあっくんイチャイチャしよーよぅ」

俺の頭をどけて立とうとしたあっくんの腰に抱きついて、お腹に顔をうずめた。
匂いをかぎながら足をばたばたさせる。

腹筋かたい!いい匂い!夢なのに!

そうそう。夢なんだこれ。だから多少無理しても大丈夫だし、俺の見たい夢は、

「疲れたからどけって」
『 こいつは甘えて……かわいい 』

わーっ!!!聞こえた!あっくんの心の声!

「あっくん!大好き!」
「なんだよ起きがけから」
『 素直……かわいい 』

おいおいおいこれはなんというツンデレ!

なんで本音を隠してるんだよ!
全然その必要ないだろ!
もっと下さい!
俺に愛を下さい!

「でへぇー」
「きもちわる」

……

あ、そこは本音なんですね。


「腹減ったな」
「なんか食べる!」
「焼きそばくらいしかねえかも」
「いいよ?焼きそば!あっくんの焼きそばおいしいもん」

上目遣いで見上げてみる。
あっくんは何も言わない。
けど。

『 ヤりたくなってきた 』

「ガフッ!」
「おい大丈夫かよ」

思わずむせたけどあっくんたらそんなこと考えてるの!昼間から何事!けだもの!

食べられたいよぅ!

「ねぇね、あっくん…」
「なに」
「焼きそばと俺、どっちが食べたい?」
「焼きそば」
『 この流れやばい 』

流されろ、流されろ彰人!

「うそ。ちゃぁんと考えて?ね?どっちが食べたい?あっくん…」

上目遣い炸裂。

「焼き……そば」
『 かわいい。エロい 』

あっくんたら俺のこと大好きじゃん!
この意地っ張り!

「んもうっ。じゃあもういいもん」

俺はすたたたと玄関に向かう。

「広樹?」
「帰る!」
「待てよ」
「イヤだ」
「待てって」

靴を履こうとしたら、後ろからぎゅってされる。

「お前何怒ってんの」
「怒ってないもん」
「じゃあなにこれ」

ぷくっと膨らませたほっぺたをプニプニとつままれる。

「ヤりたいの?」
『 怒ってる。かわいい 』

あっくんの声が笑ってる。
あっくんだってヤりたいと思ったくせに!意地悪!

「別にしたくないもん。あっくんも俺を食べたくないんでしょう?じゃあもう帰る」
「待て待て、なんでだよ」

振りほどこうとしたその腕がさらに俺を拘束する。

「拗ねてんのか」
『 この顔まじかわいい 』

え?もう…なんなの…言ってることと思ってることに翻弄されるわ…

「拗ねてないもん」
「じゃあ、行くな」
『 かわいいな。なんかいつもと違う 』

なになにギャップ萌え?じゃあ拗ねた感じでいればいいのかな?

「あっくんは俺のこと別になんとも思わないんでしょ?」

プイッと顔を逸らすと、ふっと笑う声がした。

『 抱きてえ 』

次の瞬間俺の体はほいっと抱き上げられて、あっくんの腕の中に収まったまま運ばれた。

「あっくん?」

ダメ押しの、至近距離での上目遣い。

ぽふん、と俺をベッドに下ろして、あっくんがのしかかってくる。
唇を被せるようにしてディープキスをしてから、あっくんは言った。

「食べてもいい?」

俺は下から見上げて微笑み、

「だぁめ」

と答えた。





 *





「焼きそばおいしいね」
「普通の焼きそばだけどな」
「あっくんが作ってくれたならなんでもおいしいよぉ」
『 くそ、なんで断られたんだ 』

満面の笑みで向かいに座るあっくんを見たら、あっくんの心の声が歯ぎしりした。

あっくん、なんか考えてることかわいいな。
ますます好きになっちゃうな。
ってわけで焦らしてみることにした。限界来た時のあっくんはどんなだろ、ふ、ふふふ

「んふふ、あっくん大好き」
「ふぅん」
『 じゃあなんでヤらねえんだよ 』

拗ねてるあっくん。

「ご馳走さま!洗い物は俺がやるね」
「大丈夫かよ」
「あっくんはあっち、座ってて」

台所に立ってスポンジをあわあわにする。洗い物って、子どもの頃のお手伝い以来だなぁ…ま、これ夢だけど。

「んふ〜フフフ〜ン」

鼻歌うたいながらガシャガシャと洗ってたら、後ろからあっくんにぎゅっとされた。

「やん、もう、あぶないよぉ」
「割るなよ」
『 心配 』

くそっ
優しい

「だいじょおぶ、俺、意外とできるコなんだから」

言ったそばから手が滑り、がっしゃーんと音を立ててグラスを落としてしまった。

「あ」
「触るな。危ねえから」
「ごめんなさい……」
「いいからほら、手洗って座ってろ」
「うん…」

しゅんとして水道のレバー下げたら、下げすぎて飛沫がブシャーっと俺にかかった。

「うわわ!」
「ばか、何やってんだ」
「目に入った!あっくん泡が目に入ったよ!」

目を閉じたまま手をさ迷わせたら、あっくんに強く腕を引かれてシンクを離れた。




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