企画小説

□本城のおねんね2
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「本城、テニスで勝負しようぜ」

夢の中でまず声をかけてきたのは土屋だった。
場所は学校のグラウンド。隅にテニスコートが4面見える。

「いいよ」

そう返事をした俺の脇には、姫野が立っている。
土屋がニヤリと笑った。

「なんか賭ける?」
「何を?」
「俺が勝ったらさ、野島」

土屋の隣にはいつの間にか野島が立っていた。

「俺にキスして」
「え?っと、なんて言ったの?」

混乱する野島を見て俺と土屋は笑った。

「いいね。じゃあ俺が勝ったら姫野がキスして」
「は?」
「わかった?これは男同士の勝負だから、お姫様たちが賞品」
「意味わかんない」

確かに全然筋が通らない。でも、したい。みんなの前で、姫野とえっちなキス。

「じゃあ決まり」
「よし。野島とキス。野島とキス」

俺と土屋はいそいそとコートへ向かう。
その後ろを、勝手に賞品にされた姫野と野島が慌てて追ってきた。

「ちょっと!本城!」
「ん」
「勝手にしないで!」
「どうして?姫野は嫌なの?俺とキス」
「バカじゃないの!」

俺のお姫がお怒りだ。
嬉しくなって笑ってしまった。
その横では野島が真っ赤な顔で土屋に抗議している。

「あの、土屋くん、僕ね、男の子だし、」
「知ってる」
「僕、僕ね、あの、」
「すげえ。野島って信じらんねえくらいかわいい。男の子なのに。なあ、まじで男の子?ちょっと脱いでみて。触っていい?」

野島が目をまるくして黙ったのを見て、土屋がまたニヤリと笑った。
土屋も大概変態だ。

賞品の2人を軽くあしらいながら、俺たちはコートで向き合った。










「くっそ。負けたー」
「さすがバスケ部。動けるね」
「嫌味かよ」

僅差で俺の勝ち。土屋も俺も汗で制服のポロシャツがぐっしょり濡れている。
いつの間にか周囲には観客が集まっていたみたい。
テニスは見なくていいから、これから姫野とすることを見てほしい。

「勝ったよ姫野」

愛しい人の方を見ると、俺と視線を合わせないようにあからさまにそっぽを向いている。

「姫野」

ちょっと真剣な声で言うと、姫野はちらっとこちらを窺った。

「来て」

優しく笑ってみる。
すると姫野は下を向いたままわざとゆっくり歩いてきた。俺への抗議を態度で表しているらしい。靴が地面に擦れてずうずうと音をたてている。

「もっと嬉しそうにしてよ。勝ったんだよ、俺」
「……知らない」
「かっこよかった?」
「知らないっ」
「んー」

姫野が全然俺の方を見てくれない。
ふくれっ面で向こうに行こうとした姫野を、背中からぎゅうぎゅう抱き締める。他の人が見ている。もう全部見せてやれと思うと興奮した。

「姫野、愛してるよ」

みんなに聞こえるような声で言って耳にキスすると、姫野が「んっ」と声を上げた。

「ねえ、キスして」
「やぁ」
「キスして。約束したじゃない。お願い姫野」

姫野はしばらく固まって、その後ムスッとした顔で振り向いた。期待で少しドキドキしながら待っていると、下からキッと睨まれた。

「約束なんかしてない。ゆきが勝手に言い出しただけでしょ」
「うん。ごめん」
「テニスなんかわかんない」
「うん」
「なんで俺がキスしなきゃなんないの」
「だって、好きだから」

姫野は少し狼狽えたみたいな顔をした。
もうひと押し。



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