小説3

□25 創樹とかんざし
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夏も盛りは過ぎているのに、まだまだ暑い。

創樹くんの部屋で課題をやっていたら、創樹くんがあくびをした。

「眠い?」
「少し。夜クーラー止めたら寝苦しくて寝不足」

そう言う創樹くんは、あまり汗をかかない。涼しげな顔でパソコンに向かっている。

「何してるの?レポート?」
「レポートはもう終わった」
「え!珍しい!」
「殺すぞ」
「黙ります」
「買い物してんの」
「買い物?」

ディスプレイを覗き込んで、絶句。

「買い物って…これは……」
「なっちゃんのお洋服よ」

語尾にハートをつけて言う創樹くんが見ていたのは、フリフリがついた女性用下着だった。

「僕…いらないけどね…特には…」
「またまた。ご謙遜を。お前の太もも綺麗だからガーターベルトとかどう?」
「創樹くん、僕、普通に、」
「無理じゃね。お前普通じゃねえし。おかしいし。頭」

ひどい。

「でももう、ほら、たくさんあるし。ね?この間だって秋に向けてダークカラーのショートパンツとふんわりニットのセットを買ったでしょ?これ以上増やさなくても、ね?」
「無理」

一言で否定された直後、家のチャイムが鳴った。
創樹くんが素早い動作で部屋を出て階段を降りていく。
すぐに戻った創樹くんは、そこそこ大きな箱を抱えていた。

「何?それ」
「浴衣」
「浴衣?創樹くん、浴衣着るの?」
「今日、祭があんだろ」
「うん」
「一緒に行こうぜ」

かわいいなぁ。もはやこの世のものとは思えないよ。
惚れ惚れしていると、彼は箱を開けた。

「ほら」

自慢げに持ち上げられた浴衣を見て、僕は全てを悟る。

「それは……僕のだ」
「そう!よくわかったねなっちゃん偉いねー」

創樹くんの棒読みも気にならないほどうちひしがれる。
どこからどう見ても、女の子の浴衣だ。

「創樹くん、さすがにそれは!」
「さすがにかわいすぎてぐうの音も出ない?」
「お祭りみたいな人出の多い場所で!」
「着て歩いて興奮したい?そうかそうか」
「知り合いに会ったら!」
「ああ、恥ずかしがってるお前の顔想像したらやべえな。ちょっと好きになりそう」
「…うう……今は……?」

創樹くんは僕のあごを片手で固定して顔を近づけた。息がかかる距離で言う。

「好き。なつめ」

それで、ちゅっとキスをされたりしたものだから、僕はもう抗おうなんて微塵も思わない。うん。仕方ない。
だって、幸せだもの。

「創樹くん、僕も好きだよ」

真剣に告白してしまった僕の目の前に、淡い地に花柄の浴衣、深い藍色の帯、茶色に紺の鼻緒の草履とお揃いの紺色のバッグが次々に出てくる。

「小物まで?これ、結構お金かかるでしょ…」
「バイト代ほとんどお前の服代に消えるんだけど」
「間違ってる!間違ってるよ!」
「あー、我ながら恋人に貢ぎすぎじゃね。健気な俺」
「そうですか…」

まあいいや。創樹くんが楽しいなら。

「でも浴衣の着付けとか、どうしたらいいんだろう」
「動画で検索したら出てきたから勉強しといた」

どうして大学の勉強にその熱意を向けないんだろう!とは死んでも言えない。

「着せてやるから、脱げよ」

うん、と言って脱ぐしかない僕の運命。

「下着も替えろよ」
「あ、やっぱり」
「紫の、レースのやつ」
「あの派手なやつね」

もう僕用のチェストにどんな下着があるか覚えてしまって悲しい。






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