小説3

□森田と岡崎5
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岡崎に渡されたメモと自分の携帯を交互に睨みながら、入力を終える。
岡崎は、読みやすい字を書く人だ。

今度は、感情に任せて消したりすることの無いように。
向こうが飽きて、使わなくなることはあっても。

今日、納品に行った時、勇気を振り絞って連絡先を再度教えてほしいと言うと、岡崎は嫌な顔ひとつせず、「また入れといてね」と言ってメモを渡してくれた。

岡崎の連絡先を、俺の携帯はまた、記憶した。






 *






今日も焼き鳥の仕込みをしながら、森田さんの配送が来るのを待っている。
この間、消された俺のメアドとかを書いて渡した。メールで送るより、なんとなく、手書きで、残るものを渡したくなって。店の電話機の横に置いてあるメモ帳にさくっと書いて、破って。

ありがとう、と言ってくれて、安心した。
大丈夫。また、友達を始められる。

もし誘っていいなら、森田さんと遊びに行きたいんだけど。俺も今仕事が忙しくてなかなか時間がない。最高に睡眠不足。

オフの時間が俺と森田さんでは違いすぎる。森田さんも俺もシフト制だけど、森田さんは朝から夜まで。俺は午後から深夜まで。
まあ、シフトでよかった。これで休みの日が固定で別だったら最悪だ。

「岡崎さん、今日店長、開店時間はフルで出るって言ってましたよ」

西尾がわざわざ知らせに来る。
店長の体調は少しずつだけどよくなってきてるみたいで、元のいかつい感じが戻ってきてる。中身も、外見も。

「まじか」
「あんま混まなかったら岡崎さん早くあげてやるって」
「まーじで」
「ちょっと休んだほういいっすよ。岡崎さん休み少なすぎ」

深刻そうな顔で言う。
西尾はバカだけどこういうとこがかわいい。

「岡崎さん彼女できたんすか」
「は?」
「なんかここ3日くらいギラギラしてますよ」
「ギラギラってなにお前」
「いいことありました?」

いいことはあった。

『あなたがいい人だっていうのはわかった』

森田さんは、俺にとってあの一言がものすごくでかかったことを知らないだろうな。

「写メないんすか」
「なんの」
「彼女。何歳すか」
「あーないない。年上だけど」
「なにお前年上好きなの」
「ギャル系?」

適当に返事をしてたら、キッチンのスタッフも話に混ざってきた。

森田さんがギャル系。笑える。

「いやー俺は清楚な感じが好きですね。清潔感て重要じゃないすか」

なぜかみんなが笑う。

「清楚好きとか絶対変態じゃね」
「処女はいいことねえぞ」
「岡崎さんの彼女が清楚とかねえわ。絶対ギャルでしょ。しかも性格キツそう」

森田さん、女とやんのかな。つか彼女いたこととかあんのか。いや、今だって、彼女いるとかありえるから。

友達になれたんだから、聞いても、いいんだけど。
いいんだけど。

「毎度です」

森田さんの声。

「あ、俺出る」

串を放り投げて出て行くと、白いシャツの森田さんがいた。

「森田さん」
「お疲れ様です」

森田さんの表情は優しい。優しい?わかんないけど、無表情なんだけど、なんか、眼鏡の奥の目が前よりやわらかいような、そんな気が。
あー。やべー。好きだ。

「森田さん、ほんとに本、貸してくれる?」

伝票を受け取りながら下から顔をのぞきこんだら、森田さんは困ったみたいに目をそらしながらうなずいた。
俺より大きいくせにかわいい。
キスしてやりたい。
乗っかりたい。あーあ。

「つっても今忙しくて図書館で借りた本、あんま進んでないんだけど」
「……仕事、忙しい?」
「少しね」
「……ちょっと前から、なんか、顔色よくない、ですよね」
「…そうかしら」

思わずオネエ言葉になった。なんで。
つかなに。優しい。いつもと違う!

これが本当の森田さんだとしたら、俺はこれからもっと、森田さんを好きになる。
もっともっと、深追いしてしまうんだ。
幸せだけど、少し怖い気がした。

「森田さん癒してよ。今度、読書大会しねー」
「読書大会?」
「どっかでただ本読む大会」

森田さんは、大会、と言って少し笑った。
笑った。森田さん。

「森田さん公園好き?」
「……嫌いではない、です」
「天気いい日にさあ、公園でただ本読むの。静かな公園だったら、森田さん好きでしょ、どうよ」
「…岡崎さんは、それ、たのしい?」

森田さんは今度は、照れくさそうに首をかしげた。
ドキドキする。

「うん。すげー楽しみ。ね、連絡すんね」
「はい」
「出てね、電話」
「……がんばります」

ああ。かわいい。なにこれやばい。まじでやばい。

がんばります。
がんばります。


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