小説3

□ほんろう 2
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矢崎が隣で、熱心にメモを取っている。俺はそれを、机にだらしなく伏せて首を傾け、横から見上げていた。

世界史の授業でなんだかよくわからない映画を見せられていて、矢崎は何が面白いのか集中してそれを見ている。

休み時間に教室を出ようとして、映画を観るくらいできるだろと矢崎に止められ、渋々出席した。矢崎は俺を監視するべく、わざわざ一番後ろに座った俺の隣に席を取ったのだ。

暗幕が引かれ、照明も消されているから薄暗い。そんな中、真面目な委員長は、手元を照らすライトまでついたボールペンを駆使してノートにメモを取っている。

「なあ。楽しいの、これ」

聞くが、矢崎はこっちをちらりとも見ない。
つまらない。やっぱりさぼればよかった。

「矢崎」

もう一度呼んでみる。反応はない。
本格的に退屈して、顔を下に向け、寝る体勢を取ると、すかさず肩を叩かれた。

「寝るな」
「……あ?」
「子どもじゃないんだから」
「……じゃあ、構えよ」

うっすら笑うと、矢崎はぷいっとスクリーンに視線を戻した。
その反応が楽しくて、ついいたずらをしたくなる。いつも。

体を起こし、矢崎の耳元に素早く顔を寄せる。

「触ってやろうか」

案の定、矢崎はぴくっと体を震わせた。それを取り繕うように俺を睨む。至近距離で目が合った。すかさずキスをしてやり、また机に伏せる。
矢崎を見ると、あからさまに視線を泳がせていた。

机の下で矢崎の方へ手を伸ばし、股間に触れてやると、矢崎はビクッと反応して足を机に当てたのかそこそこ大きな音がした。何人かが振り返る。

「うるさいよ、委員長」

小さな声で諌めると、また睨まれる。

「怖えな」

満足して、今度こそ寝てやろうと思い、頭を腕の上に置いた。今度は矢崎も何も言わなかった。

少しウトウトし、映画の物音で目を覚ます。首の角度を変えて目を開けると、ノートに目を落としたまま放心している矢崎が目に入る。
しばらく観察するも、矢崎は微動だにしない。明らかに怪しい。
体を起こして矢崎の手から例のボールペンを取り上げ、驚く委員長に構わずノートの端に文字を書こうとすると、その手を矢崎に握られた。

「は?」
「へ、変なこと書くなよ」
「……変なことって?」
「…卑猥な、こととか」
「……卑猥なことって?」

俺の手を握った矢崎の手をもう片方の手で包みこみながら聞く。
矢崎は、やめろ、と小さな声で言った。その赤い顔が想像よりかわいかったので、許してやることにする。

両手を放してボールペンを返そうとすると、なんだか微妙な顔で見返してくる。

「何。触れ合いが物足りなかった?」
「名前書いて」
「は?」
「ここに、お前の名前、漢字で書いて」

矢崎は赤い顔をしてノートの端を指差す。
なんだか意味はわからないが書いてやると、矢崎は一瞬嬉しそうな顔で俺の名前を眺めた。

「矢崎」
「なに」

お前かわいいな、と言いそうになって、やっぱりやめる。

「昼、一緒に食おうぜ」
「……いいよ。午後、授業出るなら」

一転して委員長の顔に戻った矢崎は、映画へと視線を戻した。

「さっき、どうしたのお前」

話しかけても反応しないモードに戻った矢崎を、また机に伏せて眺める。

「もしかして勃起したの」
「うるさい」
「図星?」
「中村、私語やめろ」

こそこそ話をしていたのがバレて先生に怒られるのは俺の役目。









そんな流れで、昼休みの校内で俺と矢崎は仲良くしている。

「あっん、……もう…無理……」

それはもう、仲良く。トイレの個室で声を我慢しながら、矢崎が涙目で俺に甘えてくるくらい。


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