小説3
□未来の軌道
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相内が疲れている。
最近は就活も本格化してきて、その合間を縫うようにお互いにバイトがあって、全然ゆっくり会えていなかった。
23:00。バイト後その足で俺の家に来てくれた相内は、くたりと座ってテレビを見ていたと思ったら、いつの間にか眠ってしまった。
「お疲れさま」
眼鏡をそっと外してテーブルに置き、タオルケットをかけてやると、一瞬目を覚まし、ありがとう、とかムニャムニャ言って、また寝息を立て始める。
「かわいいの」
でもちょっと寂しい。
話したいこと、あったのに。まあ、大したことではないんだけど。
相内にくっついて、一緒にタオルケットにくるまる。それだけでも大分癒される。
入社試験は何社か受けた。書類選考で落ちる会社もあれば、最終面接にこぎつけた会社もあった。
でも、俺は内定をもらっていない。
だって、相内がどこに決まるかわからないから。
俺は遠距離恋愛なんか絶対にできない。
相内と一緒にいたい。片時も離れたくない。
なのに相内は、並木もちゃんと本気で就活しろと言う。やりたいことを優先しろ、って。
俺の一番やりたいことは相内のそばにいることで、それより優先しなきゃいけないことなんかない。でも相内はわかってくれない。
相内の一番やりたいことが仕事だって別に構わない。多少なら放っておかれてもいい。多少なら。
それでも、俺の一番はやっぱり変わらないと思う。
価値観の相違、というやつ。
「重い。お前のその価値観」
ガツンと、頭に雷が落ちる衝撃。
言ったのは相内じゃない。野村だ。
「重い?俺って重い女?」
「就職蹴ってまでついて来られる身にもなれ」
「な、なんで?ダメかよ……」
「キモい」
「キモい?!俺キモいの?!」
「並木、その気持ちちゃんと、真面目に、相内に話した?」
柿崎が言う。
今日は居酒屋で3人会。相内はバイトだ。
「話したよ」
「お前の話し方ってふにゃふにゃしてるから、真剣さが伝わってないんじゃねえの」
「だって、そしたら、そしたらさー、どうすればいいの?」
2人とも黙る。
話し方なんか、うまく変えられない。
「それよりこないだ久々に合コンでさ」
「まだ話終わってないんだけど」
野村が虐める……!
「知らねえよ、そんなの自分で考えろ」
「うう」
「相内今日バイト何時に終わんの?呼ぶ?」
「柿崎余計なこと言うなって」
「呼ぶ呼ぶ!会いたい!そして俺がついていくことを2人で説得してよ」
「間に入ってやろうよ」
「なんで男と男の間に入んなきゃなんねえの。すげえ嫌!見返りに女を寄越せ!」
すぐにメールを送信しておく。
『3人で飲んでるから終わったら来ない?』
「並木は本当にそれでいいのか?やりたい仕事とかねえの?本当に」
柿崎に聞かれてすぐに頷く。
「つか、やりたい仕事はまあ、あるんだよ。飲食系が好きだし。けど、相内と離れてまでってのはない。相内のそばで、バイトでも激務でも貧乏でもいいからそれに近い仕事をして、会いたい時に5分でも会えるならそっちの方を俺は選びたいんだよね」
また、2人は黙った。顔を見合わせている。
「……なに」
「いや、本当に好きなんだなと思って。相内のこと」
「キモいと思って」
「野村それしか感想言えねえの?!」
「若いうちはいいよ。だけどお前、おっさんになってもファミレスの店員やんのかよ」
「その頃には店長になっててみせる。バイトから」
2人とも、可哀想な犬を見る目で俺を見ている。
「だけどさ、俺思うんだけど」
柿崎がフライドポテトをつまみながら言う。