小説3

□未来の軌道
2ページ/4ページ


「相内がお前の考えてること、わかってないはずないと思うんだよ」
「そうかなあ」
「付き合いもそこそこ長いじゃん。友達として」
「うん」

俺もつられてポテトをつまむ。

「お前の言いたいこと、わかった上で、就職しとけって言ってんじゃねえの」
「じゃあ俺はどうすればいいの」
「知らねえよ!もう、めんどくせえなあ」

野村がキレた。

「俺らの就職先のことには興味ねえのかお前」
「決まったの?」

野村はじっとりと俺を見た。

「もう確認的な最終面接しか残ってないから。多分最初の勤務地、東京」
「えー」

寂しくて泣きたくなる。

「俺も野村と同じ会社の面接残れてさ」
「え!同じ会社?」
「どうだ羨ましいだろう」
「うん……」
「で、俺も多分最初、東京」
「柿崎も?東京?えー……行くなよ柿崎」

抱きついたら、背中をバシバシ叩かれた。
どうしよう。みんないなくなってしまう。

「お前、人の方を向いてるから寂しくなんだよ。俺らみたく、仕事の方を向けよ。そしたら前進あるのみで、寂しいなんて言ってられなくなるから」

野村はそう言ってビールを飲んだ。

「みんな、どうやって、やりたいこと見つけんの」

涙声になる。

「ちょっと、並木、泣くなよお前、我慢しろ」
「相内早く来い!」

2人が慌て始めたけど、俺は構わず続ける。

「俺、就活だってとりあえず真面目にやったし、何に向いてるとか自己分析も一通りやった。けど、相内と離れてまでがんばろうと思えることなんか見つからなかったよ。おもしろそうって思う程度だよ。こんなの、俺だけなのかなあ」
「並木、大丈夫大丈夫、そんなことないって。落ち着け」
「お前最近の酒癖どうしたの」

野村が投げてくれたおしぼりで顔を拭く。

「情けない、俺。俺だけ。みんな、ちゃんとしてるのに」
「そんなことないって」
「なあ並木。お前就職しろ。なんでもいいから。できるから。そんで、がんばってみろ。自信をつけろ。お前がそんな情緒不安定だったら、就職した相内とだってうまくいかなくなるぞ」
「いーやーだー!」
「お前自分でバイト生活でいいって言ったんだぞ。本当はどっかで、バイトじゃ不安だと思ってんじゃねえのか」
「……そうなの?」
「いや知らんし」
「相内と、そこらへんも含めてゆっくり話してみな?」

柿崎が優しく言うのでまた泣きそうになってしまう。

「不安だよ、相内と離れるの。あいつ、また女の子に好かれて持ってかれるかもしんねえじゃん」
「それがうぜえっつってんの。相内は社会人生活とお前と、両方同時に安定させなきゃなんなくなるだろうが」
「だって……だって!ああー不安不安不安不安不安!」
「お前が不安なのは本当は相内のことじゃなくて自分の将来についてだろ」
「違う!相内が近くにいない場合の自分の将来が不安なの!」
「なんだよそれ。お前いくつだ」
「年とか関係ないし!」
「あ、相内」

柿崎の声で振り返ると、愛しい人が立っていた。

「あいうちぃ……」

相内の顔を見た途端、また涙が垂れてしまった。すると相内はふっと笑って頭をさらっと撫でてくれた。
優しい。大好き。

「あー。遅えよ相内。お前の並木が超めんどくせえことになってんだから」
「どうした」

安心する。本当に。この冷静な顔と声。会うと、不安が全部消えていく。
やっぱり、どんなことになっても相内のそばにいたい。

「俺、相内について行っていいよな?そこでバイト探すから、な、いいよね?野村と柿崎も東京行くんだって、だから、」
「並木、相内座らせてやれよとりあえず」
「相内痩せた?」
「少し」
「痩せたの?!」

野村が気づいたのに、俺は気がつかなかった。俺は何をしてるんだ。

「あーっ、並木がまた泣く!」
「だって」
「酔った?」

相内に聞かれて頷く。

「就活とか相内について行きたいとか、いろいろ悩んでんのが爆発したみたいだよ、酒で」

柿崎が説明しながら、残っていた焼き鳥とポテトを相内に集める。

「相内、俺、相内と離れるの嫌だよ」
「泣くな」

相内が涙を拭いてくれるので遠慮なく涙を落とす。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ