小説3

□森田と岡崎6
1ページ/4ページ


せっかく休みをもらえるから、どうせならと思って3連休を取った。2年働いて初めて。連休とか。

とりあえずシフトで休める日が確定したその日の夜、森田さんにメールをした。

『森田さん、15日休みだよね?俺も休み取れた!公園行かねー!』

15分待ったけど返事はない。明日も仕事だから先に風呂に入ることにする。
シャワーを浴びている間、携帯が気になって急いで出てしまった。
手だけ拭いて携帯を見るけど、返事はまだだった。

もう寝たかな。寝てるよな。普通の人は。森田さんは明日、仕事かな。
こんなことを考えるのだって、もう、幸せなような。切ないような。
気持ち悪。なにこれまじで。
きもい。
きもいー。自分。

髪を乾かしていたら、ぴろ、と携帯が鳴ったような気がしてすぐ見たけど、勘違いだった。

「おい。キモいって俺」

またドライヤーを手に取った時、今度は本当に携帯が鳴った。

『どこの公園に行きますか。』

はあ。森田さん。森田さんからメール。

「やべー森田さんだ森田さんだ」

ドライヤーを放棄して携帯片手にベッドに寝転がる。6回読み返して、返信画面を開いた。

『まじで!いいの!公園のあてはなかったけど、森田さんどっか知ってる?つか起きてたんだ。遅くにごめんね。』

俺、普段公園なんか行かねえしな。そう思いながら、森田さんから来たメールをまた読み返す。

どこの公園に行きますか。
待って待って。森田さんの声で再生しよう。
どこの公園に行きますか。
ぐは。
どこのー、公園にー、行きますか。
やべえ。にやける。

何度も読み返していたら、返事が来た。

『車で、未来の森公園まで行きますか。
まだ、本を読んでいました。』

「おお。それドライブデートっていうんじゃね」

嬉しくって眠気もすっ飛ぶ。
森田さんは本当に、読書が好きだな。

『いいのー!ありがとー!そうするそうする!読みたい本、持ってくることね。』

『この間送ったところまで迎えに行きますね。』

『うん!待ってるー』

思わずハートの絵文字を入れてしまった。いいか。いいよね。
眠れるかな。今日。

髪がまだ乾いていないことなんかどうでもよくなって、俺はひたすらメールを読み返して無駄に寝不足になった。



未来の森公園とやらは、大自然の森の中にあって、湿地っていうのの上に遊歩道っていう木の道が組んであって、それを歩いてまわって花とか木とかを見るっていう、そういう、俺の未知の世界な感じの公園だった。





 *





「森田さん。あそこ、あのベンチのとこまで行こ?」

岡崎は、遊歩道をずっと行った奥に見える東屋を指差した。

「はい」

俺は答える。今日の岡崎は、少し顔色がよく見えた。

「すげーな、何もないね」
「あの花、なんだろう」
「あれ?あの綿みたいなやつ?あれ花なの?」
「……多分」
「へー。すげー」

話しながら遊歩道を進む。あまり人が来ないのか、遊歩道の板と板の隙間から雑草が顔を出している。

空は晴れているが風が強かった。先を行く岡崎の髪もなびく。岡崎がそれを気にして頭に手をやる。人差し指に、銀色の指輪が嵌っていた。

10分程で東屋に着く。

「おー。いいね。じゃ、ここで読書大会」

岡崎はベンチに座り、持っていたバッグから本を取り出した。

「それ」
「まだ全部読めてなかったの。あ、借りっぱじゃないよ、何回か借り直しに行ったんだよ」

俺が勧めた、子ども用の推理小説だ。
ベンチはコの字になっていて、真ん中に木のテーブルが据えられている。
岡崎の斜め横に腰を下ろす。

「もう、犯人が誰かわかったけど」

岡崎は綺麗な顔で得意げに笑う。

「飲みます?」

持ってきたペットボトルを渡す。

「あ、これ好き」

岡崎は嬉しそうにした。以前、図書館の前で俺を待っていた岡崎が飲んでいた清涼飲料を買った。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ