小説3
□27 チワゲンカ 彰人vs広樹
1ページ/3ページ
創樹くんと教室に入ったら、まず彰人くんが目に入って、隣にいるはずの広樹くんを探すと、なんと。
「どうしたの、お前ら」
創樹くんがニヤニヤしながら最後列に座る彰人くんに近づく。
広樹くんは、彰人くんの対角線上の前の方の席に1人で座っていた。
彰人くんは机にだらりともたれている。珍しい。僕と創樹くんは彰人くんを挟むようにして席を取った。
「何かあったの?」
「……喧嘩した」
彰人くんが言った時の、その向こうの創樹くんの顔。こんなに楽しそうな、無邪気でかわいらしい笑顔は滅多に見られない。
ほっぺがふくっとしてバラ色になり、まるいおめめがきゅっと細くなる。
僕といてもこんなふうにはあまり笑わない。
複雑…!
「なになに、何があった、言えよ」
「喧嘩つか、怒らせた」
はあ、とため息を吐く彰人くんは、本当に参っている模様。ぴりりとしたイケメンフェイスに疲れが滲んでいる。
「浮気でもしたのか、最低だなお前は」
「創樹くん、嬉しそうに言う言葉じゃないよ」
「あいつは浮気だと思ってるかも」
「なに、俺をめちゃくちゃにする夢でも見た?」
「女と買い物行っただけ」
彰人くんが言った途端、教室にバシッという音が響いた。音のした方を見ると、広樹くんがバッグを思い切り机に叩きつけたところで、中から教科書を出している。
広樹くんの周りから、人がさささーっといなくなった。
「おお、怖えな。つか今の話聞こえてたとかどんだけだよ、化け物かあいつ」
創樹くんが楽しげに言った。
「女の子と買い物?」
「高校んときの友達で。そいつ彼氏もいるし、そもそも彼氏の誕プレ探すのに付き合っただけなんだけど」
「2人で?」
彰人くんはうんざりしたような顔で頷く。
「急だったし、それを前もってあいつに言わなかったから」
「ああ…それは……」
広樹くんなら許さないだろう。
「もう知らないって言われてそれっきり電話も出ねえしメールも無視される。さっき話しかけたけどスルーされた」
「あらら、それはもう、ご愁傷さまですね」
かなり憔悴している様子の彰人くんの横で、創樹くんは始終たのしそうだ。
「とりあえず僕、広樹くんの横に座るね」
僕は荷物を持って広樹くんの隣に移動した。
「隣、いい?」
話しかけると広樹くんがこっちを見上げた。
う、上目遣い…
「なっつぅ……」
ああ、これは。相当泣いたんだろう。目が腫れている。
「なっつ、なっつ」
「大丈夫だよ広樹くん」
うるうるした目で見つめられながらすがるように呼ばれて、思わずなにかを請け負う僕。
「喧嘩しちゃったの?」
座りながら聞くと、広樹くんは、ぷいっと口を尖らせた。
「喧嘩じゃないもん。あっくんが悪いんだもん。だって……」
あ、大変、泣いちゃう!
涙声になる広樹くんの頭を思わず撫でる。
「あとでゆっくり聞くからね、泣かないで」
広樹くんは、こくっと頷いて目をこすった。
*
「あらー、やいちゃうねー、彰人」
なつめが広樹の頭を撫でるのが見えたから言うと、彰人はそれを見てため息をついた。
駄目だ。楽しすぎて笑顔が全然引っ込まん。
「なんでバレた?」
「昨日の夜、1日何してたか聞かれて普通に話した」
「バッカじゃね。言うなよ」
「……やましいことねえなら言うだろうが」
だめだこいつ。
「あっくんはまだまだだねー大っ嫌い」
広樹の話し方の真似をして声高めで言ったら、彰人が一瞬ぎょっとした。
俺ら、声同じだから。
こいつらの喧嘩とか、楽しみ尽くしてやる…!キャハッ!
*
「あれー、なっつくんだ」
「正浩くん久しぶり」
「正浩ー!」
たたたっと駆け寄った広樹くんが、正浩くんに抱きつく。
「なになに、広樹ひでー顔。ウケんだけど。つか2人?珍しくね?」