小説3
□27 チワゲンカ 彰人vs広樹
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結局、大学のラウンジでグチを聞いたけれど広樹くんは終始俯いて言葉少なで、とても心配になってしまった僕は、広樹くんを引っ張って正浩くんが働いている居酒屋さんに来た。
「席空いてる?」
「あーっ、と……カウンターしか空いてないな」
「いいよね」
「ねーっ」
広樹くんがかわいいお返事をする。
「じゃ、ボックス席空いたらお声かけますね」
正浩くんが、営業スマイルでスラスラ答える。社会人だな。かっこいい。
「あきくんは?どした?」
「知らないもん」
「はー?もしかしてケンカ?どうせお前がワガママ言ったんだろ」
「言ってないぃ!俺悪くないもん!」
正浩くんが火に油を注ぐ。
「なっつくん大変だね、子守り」
「そんなことないよ」
「なっつは正浩と違って優しいんだから!もう仕事戻れば?」
広樹くんは差し出されたおしぼりで手を拭きながらプリプリしている。
「正浩くん、森田さんとは会ってる?仲良くなった?」
何気無く聞くと、正浩くんがぽわんと赤くなった。
「あ、何、なんかいいことあったの?」
「やー…ちょっとさ、あー……なっつくん今度飲まねー?」
「うん、もちろん」
「報告あるー」
「あら、なんかすてきなことだね」
正浩くんの照れ隠しのようなしかめ面に、嬉しくなって笑ってしまった。
ふと隣を見ると、なんと広樹くんが布のおしぼりをちぎっている。
「広樹くん!」
おしぼりってちぎれるの?
正浩くんはそれを見て笑っている。
「どんだけなの!キモいんだけど!弁償しろ」
「だって……」
広樹くんの目にどんどん涙が溜まっていく。
「うわめんどくせー。泣くなよ、高校の頃から変わんないねお前は」
「うるしゃいよ…」
「大丈夫だよ、広樹くん。泣かないでね、ね。おいしいもの食べようね」
こくりと頷き、広樹くんは無言でメニューの「大ジョッキ」を指差した。
*
忙しい時間帯に入ってからも、カウンターが気になって仕方がない。
なにやらイケメン彼氏とケンカしたらしい広樹と、それを必死になだめるなっつくん、という図からちょっと外れて来ている気がしないでもない。
さっきから、なっつくんが広樹を撫でたり抱きしめたり撫でたり撫で回したり、そのうち舐めまわし始めるんじゃないかとひやひやする。広樹も広樹で全然抵抗しないばかりか頭をなっつくんの肩にコテン、とかしてるし。
「なっつくんは酒癖がちょっとアレだからな」
まだ1杯目だけど、創樹に連絡してあきくんに迎えに来てもらうか。
別にあの4人がどうなろうと正直どうでもいいっつかまあ、こじれたらこじれたで面白そうではあるけど。
同僚の店員たちもチラ見してるし。さすがにおっぱじまりはしないと思うけど。
なっつくんには今度森田さんのこと話さなきゃだし、創樹にバレて酷い事されたらかわいそうだしな。
俺は隙を見て、創樹にメールをした。
*
「あはっ!楽しいことになってるみたいだよ!うふふん」
今日は笑顔垂れ流しだ。止まんね。正浩からのメールを隣の彰人に見せると、やつは眉根を寄せて舌打ちをした。
『なっつくんと広樹が店来たけどなんかぺたぺたしてるよー。いいの?』
広樹がなつめと一緒に帰って行ったので、俺と彰人はファーストフードで時間を潰していた。いつ連絡来るかわかんねえし、と帰るに帰れずしょげ返っている彰人は見ものだった。
「なっちゃんやるなあ、さすが俺の奴隷」
「……迎えに行く」
「早くしないと手遅れになるかも!なっちゃん興奮するとすごいから!」
「おい早く行くぞ」
うける!焦ってる!ひひひ。
「えー1人で行けば」
「なつめが酔ってんならブレーキ係が必要だろ」
「俺は別にそのままでもいいけど」
「創樹まじで頼むって……」
うおお、なにこれ、珍しい。殊勝な彰人。
仕方がないので一緒に行ってやることにした。優しい俺。