小説3

□森田と岡崎11
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森田さんと、手を繋いだまま向かい合って、多分もう30分くらい経った。
俺は森田さんの指を握ったり、生命線の長さを見たり、爪の形を観察したり、とても忙しかったけど、森田さんは黙ってされるがままになっていた。

「足痺れてきた」
「大丈夫?」

そんなことにすら心配そうな顔をする。
だめだ、ほんと、もう。

「好きだよ、森田さん」

止まらない。

森田さんは、少し眉を下げて俺を見た。

「そんな、そんなふうに、言わないで、あんまり」

どうして?だって、好きなんだし。
でもちょっとしつこくしすぎたかな。
そしたら森田さんは言った。

「ちょっと、ドキドキして……苦しくなってきました」
「そんなんさっきの俺の方が心臓ぶっ壊れそうだったし!」
「そう、か……」
「森田さん」

覗き込むようにしたら、森田さんはふいっとそっぽを向いた。

「森田さん?」

視線を追いかけて、わざと視界に入る。

「あの、」
「森田さーん」
「……ちょっと」
「照れてるの?」
「というか」

完全に下を向いてしまう。

「なんか、これは……すみません、失礼なこと、言いますけど」

うん、と言って続きを待つ。森田さんは、俺が丹念に調べた方の手を、もう片方の手で何度も撫でた。

「岡崎さんは、モテると思うし、俺が、もし、本気、というか、ちょっともう抜け出せなくなってから、その……」

ああ。

「すぐ誰かに乗り換えないか、心配?」
「いや、そういう、なんか、意味ではない、んですけど」
「でも心配なんだ」
「……いや」

森田さんが、ばっと顔を上げたので、少し驚く。

「すみません…今の、なしで」
「なしで」
「…なしで」
「大丈夫?」
「もう、多分、どっちにしろもう……無理です」

俺と森田さんの話す言葉が、どんどん重なって絡まって、太く、長く、厚くなっていくみたいに。

「多分、もう、俺は……実は、結構前から、岡崎さんのものになってしまって……」

探り合いながら、確かめ合いながら、積もっていくみたいに。

「認めるのが、怖かっただけで……俺は、岡崎さんのこと、だけ、特別で、仕方が無い」

ああ。もう。
絡まって絡まって、離れられなくなればいいのに。

「だけど」

だけど?
ふいに時計を見た森田さんにつられる。

「……そろそろ、送りましょうか」

時計は12時をさしていた。

「だけど、が気になるんだけど」
「今度、また」
「えー。なにその予告編」
「車、出しますね」
「大丈夫。1人で帰るよ。森田さん、明日も仕事だもん。ゆっくり寝て」
「でも」
「今日はね、幸せに浸りながら、ニヤけながら1人で帰ることにするー」

森田さんが少し笑う。
なんて、なんて幸せな。

「もしね、もし明日ふられても、俺は何億回だって、森田さんにありがとうって言うよ」

俺は1人、森田さんの家を出た。
優しい顔をした、大好きな人に見送られて。











まだ信じられないような気持ちで、岡崎の顔を思い出しながら、冷蔵庫から水を取り出す。

一連の流れを思い出して、キスの件で顔が熱くなって、思わずペットボトルを取り落としそうになる。

全部夢だったのではないかと思えてならない。昨日までは、これは友情にまつわる感情だと思っていたのに。男にキスをされても嫌ではなかった。それどころか。これは、どういう。

岡崎は友人も多く、会話の中に、誰かと来たとか誰かと食べたとか、そういった話がよく出てくる。それを、俺はなんとも苦しいような切ないような気持ちで聞いていた。それに気づいたのがつい最近だった。
嫉妬だ、俺は岡崎の隣にいる誰かに嫉妬をしている、と思い至り、鳥肌が立つほど気味が悪かった。男に嫉妬する、なんて。と思ったが、岡崎が言ったように、男相手にも恋愛感情が芽生えたりすることがあるのなら。

岡崎は、森田さんのものになりたいと言った。
本当に、どこまでも、奇特な人だ。
好きだと。俺を。岡崎が。
俺は?俺の気持ちは?

俺の気持ちは、好き、という次元ではない気がした。怖くなった。

どこまで。どこまでなら、してもいいのだろう。何をしたら、引かれるだろう。


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