小説3

□29 なつめとリキュール(果肉入り)
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「創樹くん、これは?おいしそうだよ、なんかいっぱい果肉が入ってる、イチゴの」

なつめが嬉しそうにビンを差し出す。

「ふーん。甘そう」
「そうだよね、甘すぎるのは嫌だよね…これは?マスカットの果肉」
「お前果肉入りがいいの?女子かよ」
「いや、ちょっといいなと思っただけなんだけど」

照れたように笑いながらリキュールの小瓶を棚に戻そうとするなつめにくっつきながら言う。

「いいよ、今日はお前に合わせるから」

創樹くん、と呟いて嬉しそうな顔をするなつめに、笑いそうになるのを堪える。

たまには2人でまったり家飲みするかと誘うと、なつめは素直に喜んだ。一緒にスーパーで酒やつまみを選びながら、どこまでも幸せそうな顔をする。

こいつ、いつになったら自分の酒癖に懲りるの!

と思いつつ、楽しいので放っておく。自覚と記憶がないから仕方がない。

「ビールはカートンで」
「すごいね、創樹くんは強いね」
「お前がおかしいだけ」
「えーそうかなあ。あ、おまけでお菓子ついてる」
「お前今日何着んの」
「あ、やっぱ、それはしなきゃダメ?」
「は?ふざけんな、お前が女装しないなら遊ぶ意味ねえだろ」
「わかりましたよ…」
「新しく買ったやつもある」
「また増やしたの……」
「あー楽しみ」

俺の部屋に着くと、なつめがテーブルの上に酒を並べた。俺はなつめ用のチェストを開ける。

「これとこれ」
「え!スク水!」
「チャイナもあるし」
「あはは…へえ…」
「婦警も買う予定」
「無駄遣い!」
「でもな、俺は思うわけ。清楚系でメイド服に勝てるものはないだろ?お前の場合」
「さ、さあ…」
「だから、次はぴっちり系でなんかやばいやつ探そうと思って」
「ぴっちり系というカテゴリーの意味がちょっと僕には…」
「スク水とチャイナと、婦警のはスカート超短けえタイトだから」
「…なるほど…」
「レオタードもあるんだった。新体操のとバレエのがあって迷ってんだけど。あと体操服。ブルマみたいなやつ。たまには自分で選ぶ?」
「いやいや!いいよ、僕は」
「だよな。俺のがセンスいいし。ただなー、お前そこそこでけえからサイズが」

やべえ。なつめの女装のこと考えるとつい多弁になる。

「飲むか」
「うんうん、そうしましょ。楽しいね」
「女装が?」
「創樹くんと飲むなんて久しぶり」
「おい無視すんな」

結局なつめはマスカット果肉入りのリキュールを買っていた。とりあえずビールを二口で一缶開ける。

「ええ!速い」
「ポテチ取って」
「はい、どうぞ」
「なっちゃん優しいね。お前も飲んでね」
「うん」

なつめがビールをちびちび飲む。

「おいふざけんなよ、そんなんで酔うのに何年かかるんだ」
「ちょっとポカポカしてきた」
「はやっ!」
「ああ、失敗。空きっ腹だったな」

むしろ何も食うなと思う。
酔ったなつめが自ら服を着替えて俺を襲うかと期待しながら俺は3本目を開ける。

「マスカットのやつ飲めば」
「しょうきくんも飲む?」
「誰それ」

もう呂律が怪しい!いいぞ!その調子!
力の入らない手でがんばってビンのふたを開ける。
自分で飲む前に俺に差し出してニコッと笑うその顔にはもう赤みがさしていた。

「飲ませて」
「ん?」
「口移し」
「え、え?」
「中のぶどう、食わせて?」

少し甘えた素振りを見せただけで、キラキラするなつめ。

「なっちゃん、はやく」
「うん、待ってね」

ビンを回して撹拌し、口に含むと、なつめはビンを置いて両手を俺の背中に回す。ゆっくり口づける。

「…ん…」

甘い声を出してやると、なつめの鼻息が少し荒くなる。少しぬるくなった酒と果肉が俺の口に移された。

「甘いな」
「うん」

返事をする声も、酔いで揺れている。

「好きよ、なつめ」

なんだかわからんけど、気づいたら無意識でしゃべってた。

「そーきくん!」

なつめが目を真ん丸くして叫んだ。

「は?何」
「なんてかわいいの!てんしなの!」
「どしたの。なんかいつもとモードが」
「なめたい」
「違うような」
「あますところなくなめたい」
「いいけど、まずお着替えは?」
「なにきる?」

お、おう。乗り気じゃねえか。
ニコニコしてるし。

「チャイナ!チャイナにしましょう!」


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