小説3

□30 なつめのプチモテ期
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止めた方がいいと思うより先に、なつめは三上さんと歩き出してしまう。

「お前」

創樹に声をかけるけど、なつめたちと反対方向に向かって歩いていく。広樹は俺を見上げている。

「あっくん」

なんだか急に広樹が愛しく思えて、頭を撫でてやってから、一緒に創樹を追いかけた。

「おい創樹、お前、待っててやれよ」

創樹を追いかける。広樹もついてきた。

「家で待つし」
「お前さ、なつめにもう少し優しくしろよ」

堪り兼ねて言うと、創樹は懐疑的な目を俺に向けた。

「彰人お前、なつめからあの女のことなんか聞いてんの?」
「いや知らねえけど」
「好きにすりゃいいだろ。なつめが決めることだし」
「待てって」
「うるせえな。口出してくんなよ。お前そんなお節介だった?」

創樹は馬鹿にしたように笑って、駅へ向かって歩いて行った。

俺はその辺りで立ち止まり、なつめを待つことにした。

「お前、弟と一緒に帰るか」
「んーん。あっくんと一緒にいる」
「そっか」
「ねえあっくん、なっつと創樹、なんでケンカにならないんだろね」
「なつめが折れるからだろ」
「うん」

広樹に手を握らせながら待っていると、やがてなつめが小走りに戻って来た。
1人だ。

「あの子は?」

広樹が聞く。

「帰ったよ」

答えながらなつめが周囲を見回す。

「なっつ、創ちゃんね、先に行っちゃったの」
「あぁ…そっか」

なつめは力なく笑った。

「今日バイトだっけ、創樹くん」
「わかんない」
「…会いたいな」

はは、と笑うその顔は少し辛そうだ。

「なあ、なつめさ、創樹にちゃんと言いたいこと言ってんの?」
「言いたいこと」
「さっき、三上さんと無理矢理2人にされたのだって、嫌だったんだろ。そういうの、なつめの気持ちさ、あいつわかってやってんの?」
「わからない」
「なつめばっか我慢する必要ねえだろ」

俺の言葉に、なつめは首を横に振る。

「僕は我慢してないよ」

俺と広樹は顔を見合わせた。

「なつめ、修行僧なの?」
「そんなに優しくしたら創ちゃんがもっとワガママになっちゃうよ?」
「いやお前には言われたくねえだろ」

俺たちをにこやかに眺めていたなつめは、創樹に会いに行くと言って行ってしまった。

「なっつって幸せなのかなぁ」
「さぁ。まあ、そうなんじゃねえの」
「俺は創ちゃんとは付き合いたくない」
「俺も無理」
「あっくんは俺がいいでしょ?俺しかダメでしょ?」
「帰るか」
「ねぇ、そうだよね?ね?」

まとわりつく広樹をあしらいながら、少しなつめのことを心配してみた。










家に着くとすぐ、なつめから電話が来て、もうすぐうちに着くと言ってきた。

「創樹くん」

俺を呼びながらそっと部屋に入って来たなつめは、ベッドに入っている俺に驚いたようだ。

「ど、どうしたの、具合悪いの?」
「なつめ」

腕を広げて抱きしめろ催促をすると、どこか安心したみたいな顔で、覆い被さるようにして俺を布団ごと抱き締めた。

「会いたかったよ」

さっきまで一緒にいたのに、なつめはそんなことを言う。

「さっきの女は?」
「大学の前ですぐ別れて、彰人くんたちのところに戻ったんだけど、創樹くんはもういなかったから」
「用は済んだの?」
「…済んだよ」
「お前のこと好きなの?」

なつめは少し迷ってから、なんで僕なのかな、と言って微笑んだ。

「俺でいいわけ」

ふと、口に出してみる。
女じゃなくていいのか、お前は。
別に卑下するわけでも殊勝なわけでもない。
ただ、単純に、それでいいのかと聞いてみたかっただけだ。

なつめは傷ついたような顔をした。さっきも、女と話をつけて来いと言った時も、この顔をした。
ゾクゾクする。
ああ、もっと傷つけたい。
お前を深く深く傷つける。
そしたらお前はどうする?


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