小説3

□元カノ、唐揚げ、そして乳首
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かけてあったラップをはがし、ご飯をよそう。

「じゃあ、いただきまーす」
「いただきます」
「食べて、早く、ほれほれ、どう?どう?」
「…うまい。普通に」
「だよねー!すっげえ大変だったんだから。揚げ物きついわ。汚れるしさぁ」

食べている間、相内はほぼ無言だった。いかに唐揚げを作るのが大変だったかを一方的に熱弁する俺に、時々「ふうん」とか気の無い返事をしたくらいだ。

「うお、全部無くなった。ははー、オカンの気持ちわかるねこれは」
「ご馳走様」
「はい、どうも」
「……並木」

相内は俯いて俺を呼んだ。

「ん?」
「なんでそんな、明るいわけ。腹が立つ」
「え」
「俺が遅れた理由、聞かないのな」
「ああ…そうだよな、そうだ。なんで遅れたの?」
「もういい」
「えー…」

何があったんだろう。さっきは甘えてきたくせに、今はイライラしてる。

「どうしたのハニー大好きだよ?」

そばに寄って肩を抱き、顔を覗き込んだら、相内の表情が和らいで、目が少し泳いだ。
もしかして、何、甘えたい病?
俺はよくなるからわかる。相内が感染するとは思わなかったけど。

でも、それなら対処法は知っている。
だって、俺の気持ちになればいいだけだ。

「あいちゃん、ほらおいで、ぎゅーしてあげるよ。かわいいかわいい。大好き」

横から相内を抱きしめて、背中や後頭部を優しくナデナデ。
すると思い切り振りほどかれた。

「え!思ってたのと違う!」
「…お前の天然に初めてイラっとした」
「どうしたの…俺、なんかした?」

不安になってくる。
相内はしばらく黙った後、ふーっと長く息を吐いた。

「いや。悪い。八つ当たり」

呟いた声に自分を責めるような響きがあって、俺は相内を再度抱きしめる。

「どうしたの。相内、女の子みたい。理由もなくイライラしちゃって」

そしてまた振りほどかれる。

「理由はある!」

初めて声を張られて、びっくりして目をパチパチした。

「お前はよくそうやって無意識に人の地雷を踏めるよな。よりによって今日ここで俺を、女と一緒にして」
「落ち着いて、ね?」
「うるさい。黙れ」
「相内」

なんだか、怒っている顔もかわいく見えて、思わずニマニマした。

「かわいい。本当。大好き」

眼鏡の奥の瞳が揺れる。

「ああ。俺さー、相内の彼氏になれて本当幸せ」

すでに俺は満面の笑みだ。

相内は小さな声で「マイペース」と言って寂しげに笑った。
何、その顔。堪らない。

「相内、したい」
「…いいよ」
「ほんと?!」
「並木…」

ぽつりぽつりと、相内は言葉を紡ぐ。いつもより自信が無い感じが、少し気になる。

「並木、さわって…」

言いながら、相内は俺の手をそっと、胸へ導いた。

「どうしたの!いつもの相内じゃない!」
「うるさ…」
「変だ!そんなの普通じゃない!何かあったんだろ!乳首さわってなんて!」
「そこかよ」
「でも、触るね」

服の下へ、静かに手を差し入れた。

「あっ、あぁ…」

相内が目を伏せて、俺の肩口におでこをくっつける。

「きもちい?」
「…ん…」
「どうしたの…なんかあったんだろ?」

今日の相内は絶対におかしい。聞き出そうと顔を覗き込むと、眼鏡の奥の瞳が微かに光った気がした。

「…何も」
「嘘…変だよ?」
「いいからっ」

相内は語気を強めて、また俺の首元に顔を埋めた。

「並木……」
「んー?」
「そこ…もっと…もっとして」

甘えるような掠れ声で、俺の体に鳥肌が立つ。相内に首筋を吸われながら、乳首をくにくにと弄った。

「ん…あ…はぁっ…」
「ちょっと相内、エロすぎんだけど…」

俺の声まで掠れる。

「もっと…」
「もっと?足りないの?」
「並木の好きにしていいよ」
「あぁ?」

流石にちょっと、これは俺でも気づくレベル。おかしい。

「なあ、どしたの」
「聞くな」
「さっきは聞かないんだなって言ったくせに…だっておかしいもん絶対。なに、俺には話せないこと?」
「後で。話す、かもしれないから」
「曖昧ー!珍しくー!」
「なあ、いいから…」

相内は、止まっていた俺の手をまた、自分の胸元へ持っていく。


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