小説3

□森田と岡崎13+本編4人 正六角関係
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「正浩、今日休みだって!お酒買ってきてもらおうよぅねぇあっくん、だってもう外出るの面倒だよぉ」

広樹くんが携帯から顔を上げるなり彰人くんに甘え始めた。

「あいつ来れんの?」
「来てもらう!電話しよ」

広樹くんはニコニコしながら彰人くんの膝にまたがった。

「うっぜ」

僕の隣でポテチを食べながら、創樹くんがボソリと呟いた。

今日もまた、彰人くんの家で飲んでいる。買ったお酒が残り少なくなってきて、彰人くんが、買いに出るかと広樹くんを誘ったところだった。

「正浩ー!ねぇ、あっくんちで飲んでるからお酒買って来て?……えー嫌だぁ、お願い!……だってどうせ暇でしょ?……うん……いいじゃん!うん……ビールとワイン。……うん、なんでもいいよ」

広樹くんは至近距離で彰人くんの顔をガン見して唇を指でふにふにと触ったりしながら電話で正浩くんと話している。彰人くんは既に少し酔っていて、たまに広樹くんを撫でたり微笑んだりしている。
イケメン。

そして僕は今日、飲んでいない!

「おいなつめ、いや、下僕」
「ん?」
「なんで今日飲まねえの。殺すぞ」
「え!いや、明日試験だから、二日酔いになったりしたら困るし…ごめんね」
「つまんね。帰れば」
「えー嫌だよ、せっかく休みなんだから創樹くんと居たいよ」
「帰るかもしくは女装しろ」
「なぜその二択!」
「じょ、そ、う!じょ、そ、う!」
「女装コールやめて!ここでは無理!」
「ここでは?」
「…今度ね…創樹くんの家でね……」
「当然だ」

若干お腹が空いたので、買って来ていた冷凍のピザとポテトをチンして、テーブルにガサガサと並べる。

彰人くんが僕に笑いかけて、「さんきゅ」と言ってくれたので笑顔を返そうとしたら、膝の上の広樹くんがホラー映画のクライマックスのような顔で僕を見た。

その時、玄関のチャイムが鳴った。

「あ!正浩だよーきっと!ほら、なっつ、行ってきて」

広樹くんに命じられるまま、ドアを開けに行く。

「あーなっつくん、元気ー」

ビニール袋を手にした正浩くんは、今日もおしゃれさんだ。

「お使い頼んでごめんね、上がって。僕の家じゃないけど」
「いやー、俺今日このまま帰るわ」

びっくりしてしまう。

「そうなの?用事?」
「つか、人待ってんの。あー、…あんね、森田さんと付き合うことになってさー」
「え!ええ!いつ、いつから、どうして!」
「ま、色々あって。で、今そこで森田さん待ってんの」
「えー!」
「だから行くねー。また今度遊ぼ」

にっと笑ってひらひら手を振る正浩くんに、聞きたいことがいっぱいあった。
でもとりあえず部屋へ声をかける。

「正浩くん帰るって!」

嬉しくて泣きそうになってしまった僕を、正浩くんは照れ笑いで見て、それでハグしてくれた。

「なっつくん。ありがとね」
「よかった、よかったね、ほんとに」
「ん」
「幸せにね」
「つかもう幸せですでにやべーよ」
「そう…そうか」

そして後ろから創樹くんに蹴られる。

「えー、なんで?お酒は?」

広樹くんがパタパタと走って来るなり正浩くんに聞く。

「お前は酒さえあれば満足だろ」
「うん」
「正直だな」

後から彰人くんも出て来て、僕は興奮気味に「森田さんと付き合ってるんだって、それで今外にいるんだって」と報告してしまった。

そして、森田さん嫌がるし今度ちゃんと紹介するから待て、という正浩くんの制止を無視して、僕たちは外に停めてあった車にどやどやと近づいた。

運転席で何か紙を眺めていた森田さんは、広樹くんの窓ノックに顔を上げ、僕たちを見て大層驚いた様子。

「森田さんごめんね、野次馬が」

正浩くんがドアを開けて謝ると、森田さんはぎこちなく頷いた。
ああ、この人はきっと、誠実な人だろう。直感でそう思う。

口々に挨拶をする。森田さんは律儀に名乗ってくれたけど、眼鏡をかけた目が泳いでいた。

「森田さんも正浩も上がって行けばいいじゃん!ね、あっくん」
「ん」
「今日は無理」

正浩くんがばっさり切り捨てる。森田さんは助手席に座った正浩くんを見た。

「…岡崎さん、遊んで来ても、全然、大丈夫ですよ」

森田さんは、とても静かに話す人だった。
そしてその言い方に、正浩くんや僕たちへの配慮が滲んでいてほんわかした。

「んーん、いいの。今日は。森田さんと約束だもん」

森田さんの方を向いて返事をした正浩くんの顔は、僕たちからは見えなかった。

2人を乗せて遠慮がちに走り去って行った車を見送り、家に戻る。

そうか。正浩くんと森田さんは、岡崎さん、森田さん、って呼び合うんだ。

「…正浩の声、聞いた?」
「吐きそう」
「俺も…」

広樹くんと創樹くんが酷いことを言っている。

でも全然、全然違った、ということだけは僕にもわかる。

「特別なんだね、森田さん」

あんなに甘い、優しい話し方を、正浩くんがしていた。普段の、僕たちと接する時や働いている時とは全然違う。
その声は、僕たちの中に強く残ったのだった。

そしてしばらく、苗字にさん付けで呼び合うのが流行った。






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