小説3

□森田と岡崎15
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「ねえ、森田さん。まだ寝ないの?」

森田さんは、布団にうつ伏せになって本を読んでる。
深夜3時。
俺は仕事終わりでまぶたが重すぎる。今にも寝そうなんだけど、今日は精神的にちょっと疲れて、だから森田さんになでなでしてもらって寝たかったのに。

「もう少し、読んでから」

森田さんは俺の方を見もしない。

「森田さん」

多分、推理小説の1番楽しいとこなんだ。ページが最後の方だし。わかるけど。でも。

うぜーと思いながらも口に出してしまう。

「ねえ。俺と本とどっちが大事なの」

そしたら森田さんはぱっとこっちを見た。目が合うとキョドキョドしながらも、俺にそっと手を伸ばす。

「何よりも、俺は、岡崎さんが、大事ですよ」

そう言って、さらっと、本当にさらっと笑って、俺のおでこを撫でてくれる。

むう。
それならいいけど?

と思って、もうスヤスヤした気持ちになっちゃう俺。

それ以上は何も言わないし、すぐに本に戻ってしまう森田さん。

俺の眠気はもう限界で、ページをめくる音に安心して目を閉じる。

森田さんって、計算じゃなくて、生まれつきの男たらしなんでは。

そういう人って初めて会ったなぁ、と思いながら、俺は眠りについた。







次の日の開店直後。
面倒な客が来た。

「平井。行かなくていいから」

不安そうな顔をした後輩の女子に声をかける。

「忙しくなったら呼ぶからあんまホール出んな」
「…すみません」

そのおっさんは、何を勘違いしてんのか、居酒屋の店員には何をしてもいいと思ってる。

「いらっしゃいませー。お飲物は」
「きぬこちゃんは?」
「今日はキッチンが忙しいので平井は中にいます」

にこやかに、きっぱりと。
なんだよ、男しかいねえのかよ、とかブツブツ呟いて、焼酎のロックをオーダーするおっさん。
多分そのうち平井を呼べって始まる。

おっさんに気に入られた平井はいろいろセクハラされて、精神的にきていた。

居酒屋で働く以上そういうの軽く流せないときついから、平井も平井でまだまだだ。

でもまあ、まだ若いしな。
2こしか違わないけど。
それに、おっさんのセクハラもちょっとひどい。

平井は全然まだまだだけど、ちゃんと真面目にがんばるタイプだから、店長や年上のキッチンスタッフからの支持があつい。
だからこういう時も、みんなで連携して助けてやれる。
キッチンスタッフが代わりに少しホールに出たりして。

普段の行い、大事。

注文されたものをテーブルに運ぶたび、おっさんは俺の顔を見上げる。
そして舌打ち。

俺だって好きでお前の顔見に来てるわけじゃねーよ。

「きぬこちゃん呼んで。一回」

一回もクソもあるか。そういう店じゃねーんだよ。キャバ行く金ねえからってうちを使うな。

「平井は忙しいので、俺で我慢して下さい」

あからさまにため息をつかれるけど、おっさんの表情が少し緩む。

「きぬこちゃんかわいいよな」

ニヤニヤしながら焼酎をあおる。
そうですか。俺にはわかりません。

「お前もそういう目で見ることあるだろ?あんだけかわいいんだから」

ねーよハゲ。

「さあ。どうっすかねー。忙しくて同僚の顔見る暇とかないんすよ」
「そんなわけあるかよ」
「いや本当ですって」

はは、と空笑いして、呼ばれた他のテーブルのオーダーを聞く。

はー。キモいキモい。ストーカーとかやめてよ。めんどくせえから。

あー森田さんに会いたい。

一件急な団体が入ってバタバタする。ホールの人出が足りないので平井を団体の方へ。

そしたら運悪く、例のおっさんがトイレに行くのと鉢合わせたらしい。俺が気づいた時には平井は肩を抱かれて半泣きになっていた。

「店長すんません、平井が」

強面の店長におっさんを任せる時が来た。

「お客様。すみませんね」

その一言でささっと平井を取り返した店長が、怖い顔で微笑む。
おっさんはぴくっとして逆ギレしかけ、それでも店長の顔を全然見ない。

怖いよね。わかる。


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