小説3

□安達さん、テレフォン。
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今日僕は、ゼミの合宿で田舎の合宿所に来ています。
そこはとてもいいところで、周りには田んぼと山しかありません。

僕は時々うつくしい安達さんを思い出して赤面したりしながら、仲間や先生と一緒に合宿を楽しんでいました。

その夜のことです。

同じ部屋の仲間とトランプで遊んでいたところ、合宿所のお婆さんが僕を呼びに来たのです。

携帯は圏外エリアなのですが、ロビーには黒電話が設置してあり、急用があれば使えるようになっています。そこに僕宛の電話がかかって来たというので急いで下りて行きました。

「もしもし、みちるです」
『ああ、みっちゃん』
「安達さん?」

安達さんです。間違いありません。

『今、君の部屋にいるんだけれど』

完全に間違いありません安達さんです。

「また!不法侵入という言葉をご存知ですか」
『みっちゃん、私が今、何をしているか、当ててご覧』
「それより急ぎの用というのは?」
『ハア、はぁ…みっちゃん』

嫌な予感がして、目眩を起こしそうになります。

「安達さん、僕は今忙しいのですよ」
『どうせトランプでもしていたのだろう』
「盗聴!」
『まさか!失敬だね君は。いくら私でもそこまではしないさ』

安達さんの基準がわかりません。
この間盗撮をされたばかりなのですから。

合宿所のお婆さんがちらりと僕を見ながら通り過ぎて行きます。

「安達さん、こちらのお電話では長話は迷惑がかかるので」
『みっちゃん…私は今、全裸でみっちゃんの部屋に仁王立ちだよ、はぁ、はぁはぁみっちゃん』
「あ、安達さん……」
『みっちゃん、みっちゃんのベッドに寝てみることにしよう。ハアハア』
「まったくもう……」

安達さんの息の荒さに、僕はなぜか少しドキドキしてしまいます。

『ねえみっちゃん…今、私は何をしていると思う?』

安達さんの呼吸が荒いので、電話口から、ボーボーという音が聞こえます。

「ええと…ちょっとここでは…」

言えない。言えっこありません。

『はい、時間切れだよみっちゃん。残念無念。さあ正解は』

安達さんの得意げな声に若干苛立ちを覚えました。

『勃起したペニスの先端を、みっちゃんの枕に押し付けている、でした』
「変態!」

うっと声がして、安達さんがしばらく沈黙します。
嫌な予感が当たらなければいいのですが。

『うふ、ふふふ…危ない危ない。射精してしまうところだったよ、はは』

笑い事ではありません。でもなぜか僕は、夢中で安達さんの声に耳を傾けてしまっています。

『みっちゃん…ああ…どうして君は僕から遠く離れてしまったんだろう…ハアハア』
「明後日には…帰りますよ」
『今だよみっちゃん。私は今君に会いたいんだよ、はあ、くっ、ああ気持ちがいい…』

電話の向こうでは、ぬちぬちという音がしています。

「な、何をしているの、安達さん」

聞きたいような、聞きたくないような感じです。

『何をしていると思う?ふふ、みっちゃん、君は本当にかわいいね…ほら、可愛い顔を真っ赤にして…耳まで赤いよ…ああ…かわいい…食べてしまいたいよ…愛しているよ…みっちゃん…ハア…みっちゃんのかわいいペニスが勃起しているのを口に含んで転がしたいなぁ…はは…ああっ…』
「あだ、安達さん…」

僕はすっかり安達さんの声以外何も聞こえないような気になっています。
まるで、安達さんがすぐそばにいて、僕を抱いてくれるようなのです。

受話器を持つ手がしっとり汗をかいています。
反対の手の指に、僕は黒いコードをくるくると巻きつけました。

『みっちゃん、いい子だからキスをして、私に』
「でも、でも、どうやって…?」
『ちゅって、音を立てるんだよ。できるだろう?はあはあはあみっちゃん、早くしないと、ほら、ね』

そこで僕はやっとこさ我に返ったのです。
ここは合宿所。共用の黒電話なのです。

「安達さん、無理ですよ、だめっ、僕、できません…」
『ああああみっちゃん、そんな可哀想な声を出して。よしよし、ああ、すごくかたくなってしまったよ、うぅっ、これはすごいよ、もっと声を、声を聞かせなさいみっちゃん、キスしてキスをほら早く、舌も入れて』
「あっあ…安達さん…」

お婆さんが戻ってきたらどうしよう。
安達さんのハアハアは荒くなる一方だし、誰がいつここを通るかわからないので、僕は不安と興奮でおかしくなりそうです。

『みっちゃん、早くしてね、んん、私も限界が近いよ、ね』
「えっと、えっと」

僕は目を閉じて安達さんのうつくしい顔を思い浮かべました。

なんだかとても幸せな心持ちになって、素直に口から出た言葉を、安達さんへ聞かせてあげました。

「僕、僕も、安達さんのちんちんを、あの、ちゅーっとしたいです!」

次の瞬間、安達さんの「うっ、それは反則」という声が聞こえ、またしばらく沈黙がありました。
今度はちゃんと、射精したようでした。

僕は1人、合宿所のロビーに佇んで、安達さんの気配に耳を澄ますのでした。


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